太古代海洋プレート層序堆積物の化学分析による初期海水進化の解明
【研究分野】岩石・鉱物・鉱床学
【研究キーワード】
海水進化 / 初期地球 / 縞状鉄鉱層 / 太古代 / 地球化学 / 海洋プレート層序
【研究成果の概要】
本研究申込者らは,オーストラリアなどの太古代地質体を詳細に野外調査することにより,これらの多くが付加体であり,海洋プレート層序が普遍的に復元されることを見い出した.予察的な化学分析からも,海嶺玄武岩の上に載る海洋プレート層序堆積物は,下位から上位に海嶺熱水成,海成,陸源成とその構成成分が徐々に変化することが確認された.33億年前の約200試料の化学分析から,以下のような重要な結論が得られた.
(1)チャートと縞状鉄鉱はSiO_2とFe_2O_3^*の2成分で90wt.%以上を占める.砕屑物を多く含む珪質泥岩はAl_2O_3,TiO_2含有量が高く,SiO_2は約70wt.%でFe203^*はほとんど含まない.
(2)下位層準の縞状鉄鉱やチャートのREEパターンは左上がりで明瞭な正のEu異常を示す.珪質泥岩と互層する縞状鉄鉱は滑らかな左上がりで,正のEu異常は認められない,形質泥岩は比較的フラットで正のEu異常を示す.
(3)Al_2O_3-Eu異常関係図において,縞状鉄鉱/チャートの正のEu異常はAl_2O_3とは無関係であるが,珪質泥岩のそれはAl_2O_3と明瞭な正相関を示す.
(4)下位の縞状鉄鉱,チャートから上位の縞状鉄鉱,チャートにかけて連続的な総REE量の増加,正のEu異常の減少が認められる.
これらの化学分析結果をもとに,野外地質調査からのデータを合わせて,さらに当時の海水組成をコントロールしていた河川水と熱水の量比を数値計算により求めた.海洋への流入物質(Input)は河川水,砕屑物,熱水であり,海洋からの除去物質(Output)は堆積物である.海洋が元素iについて平衡状態であったとすると,
C^i_<Hy>・m_<Hy>+C^i_<Ri>・km_<De>+C^i_<De>・m_<De>=C^i_<Se>・m_<Se>
が成り立つ(C:濃度,m:質量,k:比例定数,Hy:熱水,Ri:河川水,De:砕屑物,Se:堆積物を示す).ZnとCuの2元素は共に熱水や河川水中の組成が現世にほぼ等しいと考えられるので,これら2元素についての連立方程式を展開した.その計算の結果,33億年前の海水組成は現在とほとんど変わらない量の河川水と現在よりも数十倍激しい海嶺熱水によってコントロールされていた可能性が示唆される.この当時の海水組成は現在よりも活発な海嶺熱水の影響を受けつつも,既に存在していた分化した大陸地殻からの影響を強く受けていたことが示された.
【研究代表者】
【研究種目】奨励研究(A)
【研究期間】1995
【配分額】1,000千円 (直接経費: 1,000千円)