心の理論の発達と言語発達:音韻・統語の両面から
【研究分野】言語学
【研究キーワード】
言語獲得 / 発話行為能力 / 心の理論 / 音象徴 / 受身文 / 視線計測 / 言語学 / 音声学 / 統語論
【研究成果の概要】
本研究では、心の理論課題と言語課題を幼児に対して実施し、「心の理論の発達」と「言語能力の発達」の詳細を調査するとともに、それらの相関を明らかにすることを目的としている。
令和3年度も、新型コロナウィルス感染拡大の影響を受け、追実験を中止せざるを得なかった。そこで、平成29年度に実験を行った「心の理論の発達」と「発話行為能力」に関する実験データを再考した。新たな知見を加えて論文にまとめ、それを国内の論文集に発表した。
論文の具体的内容は、以下の通りである。本研究では、日本語を母語とする2-3歳児に対し、物体または人間の体の部分が描かれたカードを1枚ずつ参加者に提示し、参加者にはそれぞれの絵に対応する単語を発音してもらうことを求めた。そして、刺激音の絵が描かれたカードが参加者に提示された際、参加者の発話が聞き取りにくかったかのように、「え?」と聞き返し、参加者の単語の発音がどのように変化するかをコーディングした。
実験は三週間の間を空けて2 回に分けて行われた。また、三週間の間、心の理論の発達を促す別の実験として、参加者の親にはおままごとのごっこ遊びを行ってもらった。そして、実験前後で「心の理論」の習得実験であるサリーアン課題を行い、実験参加者の心の理論の発達度を測定した。
本実験の結果から2~3歳児であっても、少なくとも「聞き返された」という状況において、発話の明瞭度を変えることができることが判明した。しかしながら、「心の理論」との相関性については、はっきりとした関係性は見出されなかった。この結果から、「聞き返しに対して発話を明瞭にする」という行為と「心の理論の発達」は直接的には必ずしも関連しないという可能性と、「聞き返し」というタスクが、参加者に不安を抱かせてしまった可能性が考えられる。音響分析などを用いた計量的な分析も含め、これらの可能性の考察は今後の課題とする。
【研究代表者】