習慣を中核にすえた新たな心の哲学と心の科学の展開
【研究キーワード】
習慣 / 技 / 共感 / 物語的自己 / 世阿弥 / ドレイファス / 意識の機能 / わざ / エナクティヴィズム / 現象学 / 生態心理学 / 受容性 / 身体性認知
【研究成果の概要】
本研究では,現象学,プラグマティズム,日本哲学,身体性認知の観点を取り入れて,習慣とはどのようなものであるかを明らかにし,また,認知や行為を習慣に基づいた働きとして捉え直す。さらに,習慣を中核にすえた心のモデルが神経科学や人工知能研究に対してもつ帰結を考察する。本年度の主な研究実績は以下の4点である。
①共感を習慣に基づいた働きとして捉え直す研究を継続した(分担者早川との共同研究)。昨年度末の時点で国際誌に論文を投稿し,6月に国際学会で発表をおこない,議論を前進させることができた。だが残念ながら,年度内に査読結果が返ってこなかった。
②物語的自己意識の形成における習慣の働きを明らかにする研究を進めた。哲学や心理学で唱えられている「物語的自己」の理論によると,私たちの自己意識は過去の経験や行為を物語にまとめあげる「語り」の働きによって形成される。このような語りにおいて身体的な習慣形成の力が重要な役割を果たしている可能性を検討した。現在,論文を準備中である。
③世阿弥の芸道論と現代哲学/心理学の観点を組み合わせて,技と習慣の関係を考察する研究を推進した。現代の哲学者ヒューバート・ドレイファスは専門技能(expertise)を洗練された感覚運動的習慣として説明する。しかし,身体は次々に新たな習慣を身につけて成長するばかりのものではない。本研究では,世阿弥の「初心」の概念に基づいて,ドレイファスの技能論が健康で力強い身体像を暗黙の前提としていることを明らかにした。また本年度の研究では,世阿弥の離見の見を生態心理学の観点をまじえて分析する研究も,ほぼまとめあげられた。
④「意識の機能」にかんする理論を体系的に理解するための枠組みを提案する研究をおこなった(分担者西田・新川・濱田との共同研究)。本研究には意識研究を習慣の観点と結びつけるための予備的考察となる可能性が期待される。
【研究代表者】