格子H行列に基づく数値線形代数の構築と最新アーキテクチャへの高性能実装法
【研究キーワード】
H行列法 / 行列近似 / 数値線形代数 / 並列計算 / 混合精度演算 / 近似計算 / 低ランク / 高性能計算 / アルゴリズム
【研究成果の概要】
格子H行列を用いた数値線形代数系の構築を目的とし、固有値計算、LU分解、QR分解などを実行する新しいアルゴリズムの研究・開発を行った。多くの成果が得られた中でも、主要なものとして、BLR(Block Low-Rank)行列の固有値計算法が挙げられる。格子H行列の特殊な場合であるBLR行列について、全固有値を計算するアルゴリズムを開発した。開発したアルゴリズムの計算複雑度を、BLR行列を特徴付ける行列サイズ・ブロックサイズ・各ブロックの階数(ランク)を変数として見積り、最適な条件を検討した。最適条件下で提案アルゴリズムの計算量が従来の密行列の場合に比べて大幅に低減させられることを理論的に示した。また、数値実験を用いて、計算時間が理論通り計算量に比例すること、および、固有値と固有ベクトルの誤差が階数を増やすにつれて密行列に近づいていくことを確かめた。
格子H行列法の適用範囲の拡大に取り組んだ。従来、格子H行列を含む低ランク構造行列法は境界要素解析(時間項を含まない空間領域の積分方程式法)への適用が想定されていた。時空間領域積分方程式法に適用範囲を拡張すべく、FDP(Fast Domain Partitioning)法と格子H行列法を組み合わせた手法を開発し、従来手法の計算量を開発手法では大幅に低減させられることを理論的に示した。さらに、3次元弾性波動伝播解析を提案手法で行う計算コードを開発し、理論に近い計算時間で解析が行えることを確かめた。
格子H行列法の高性能実装に関する研究においても多くの成果が得られた。主要な成果としては、タスク並列言語Tascellを拡張し、分散メモリ環境における行列分割構造生成の並列実装を提案した。3次元電場解析に対する約1億要素を用いた数値実験において、最大8ノード×36ワーカーで良好な高速化を達成した。
【研究代表者】
伊田 明弘 国立研究開発法人海洋研究開発機構 付加価値情報創生部門(地球情報科学技術センター) 副主任研究員
(Kakenデータベース)