社会構成主義的認知理論に基づいた災害科学コミュニケーションの確立
【研究キーワード】
災害科学 / コミュニケーション / 理科教育 / ナラティヴ / 地球システム / 災害 / 不確実性 / 論理実証主義 / 社会構成主義
【研究成果の概要】
災害科学の知識を防災につなげるための,科学的知識のより良い伝え方・位置づけ方を模索するため,埼玉県の防災教育重点校の小学校をフィールドとして,2つの理科の出前授業(「理科教室」)を実施した。これら2つの実践においてはともに,「地球システム」と「自分と地球のかかわり」に焦点を当て,「ナラティヴ(語り)」を通じて地球科学の知を物語化して共有することを重視した。
研究の実施にあたって,ナラティヴによって個人の文脈の中で意味的なつながりとまとまりをもった形で現実を構成する知識のあり方を物語モードとして整理し,それを自然科学の根底にある論理実証モードとの対比の構造に位置づけた。この枠組みを踏まえた分析により,参加者が地球システムや災害現象に関する語りを通してその意味を彼らの日常の文脈の中に再構成していく傾向について考察した。
2つの実践の結果,科学の知識はナラティヴ(物語モード)を活用して伝達されることで,単に「わかりやすい」知識としての(論理実証モード的な)理解を越えて,自らが生きる固有の世界の文脈に位置づけられることがわかった。また,ナラティヴによる知識共有のあり方を通して,人間が介在する余地もない大きなシステムとして動いている地球の中に自分たちが暮らしているという関係性を,実感をもってとらえ直す傾向が見られた。さらに,地球の全体像をふまえた地震・雨の理解によって,その現象に「(地球システムの一部として)必然的に起こるもの」という新たな意味づけがなされ,納得感や受容,そして災害へのポジティブな向き合い方へとつながった。
これらを通じ,災害科学の知識を防災行動により資するようにするための位置づけ方は,災害や地球に対して謙虚に向き合う姿勢を形成するものであることが示唆される。
【研究代表者】