植物の環境情報認識システムに関する工学的研究
【研究分野】機械力学・制御工学
【研究キーワード】
生体システム / 環境情報 / 生体電位 / バイオテクノロジー / 植物組織培養 / カルス / センサ
【研究成果の概要】
筆者らはこれまで, 植物が環境の変化, とくに磁場や電場, 熱, 音, 光などの物理的な刺激をいかにセンシングし, 発生分化や形態形成に役立てているかという問題を情報システム的観点から研究してきた. 本研究では, カルス細胞塊(ニンジン)の発生分化に及ぼす磁気刺激の影響を調べるとともに, カルスの磁気刺激下における生体表面電位変化挙動を購入した8chの増幅器を基に試作した計測システムにより調べた. また, 植物器官として, 葉の局所を熱あるいは磁気刺激した時の情報の受容, 伝達挙動も試作装置により調べた. さらに, 2年度に購入した微小電極用増幅器を用いた細胞内電位計測システムを試作し, 表面のマクロな電位変化とその場の細胞内電位変化の関係を調べた. 得られた知見を要約すると以下の通りである. (1)カルスからのシュート形成に要する日数が磁気刺激により2/3程度に短縮される可能性を見出した. (2)カルス細胞塊の生体表面電位は, 非刺激状態で場所によって局所的に自発的なゆらぎを示すこと, また, このゆらぎ発生箇所は時間経過とともに変わることを見出した. さらに, 発生した根表面においても同様の傾向を示す. (3)30ガウス程度の磁気刺激をカルスに与えた場合, ゆらぎを誘発したり, 自発的なゆらぎを攪乱あるいは消滅したりする. また, カルス局所を磁気刺激した場合, その場所で生体電位の変化が現れないことが多い. しかし, 刺激を直接受けていない場所で生体電位変化がしばしば観察されることを見出した. (4)葉の局所を磁気あるいは熱刺激した場合, 現象的には上記カルスの結果と似て, 刺激箇所, 計測箇所の違いにより生体電位変化挙動が異なり, 情報の伝達経路はかなり複雑で特定できない. (5)数mmの領域におけるマクロな表面電位変化挙動は, 細胞内のミクロな電位変化と相関がある可能性を見出した. 以上の生体電位変化は, 植物の環境情報の受容, 伝達に関係があると想像される.
【研究代表者】
【研究種目】一般研究(C)
【研究期間】1986 - 1987
【配分額】1,900千円 (直接経費: 1,900千円)