中枢神経系超早期の発達に影響する分子異常に着目した自閉症脳病態の解明
【研究分野】精神神経科学
【研究キーワード】
児童精神医学 / 環境変動 / 遺伝子 / 脳 / 神経 / 発生 / 分化 / 脳・神経 / 発生・分化
【研究成果の概要】
自閉症を高率に合併することが知られている結節性硬化症の責任遺伝子TSC2に変異をもつEkerラットのスパインを超微形態学的に検討し、多数の融合した異常ミトコンドリアとシナプス未形成のフィロポディアを確認した。また、発達期に発現するarcadlinという蛋白質のスパイン制御機構を明らかにした。結節性硬化症では、TSC2-Rheb-mTORの異常が何らかのメカニズムを介してミトコンドリアの増殖あるいは融合を促進し、そのためにスパイン成熟の遅れをきたすものと考えられた。この点では、臨床遺伝学的研究により、神経接着因子(NRCAM)の遺伝子多型が自閉症と有意に関連することを見出しており、興味深い。オスのメス化作用が知られている環境ホルモンのラット新生仔期における低用量暴露が、成長後のオスのみに学習障害と多動をきたし、かつEstrogenα受容体(ERα)アンタゴニスト投与によって、環境ホルモンの脳への影響を未然に防ぐことができた。環境ホルモンの作用はラット胎仔海馬組織の初代培養系でも観察することができ、スパインの成熟遅延が見られた。このメカニズムにもERαの関与が証明された。
遺伝子解析では、7番および15番染色体長腕領域(7g,15g)上の候補遺伝子を中心に自閉症との関連を検討し、NRCAM以外にもTSC遺伝子やmaternal expression domain(MED)の一部との有意な関連を見出した。その他の部位ではオキシトシン受容体(OXTR)遺伝子の複数のSNPで自閉症症状との有意な関連を認めた。
神経画像研究では、自閉症の三主徴である、社会的相互性、コミュニケーション、固執・常同に対応する脳基盤をマルチモダリティ神経画像によって同定した。具体的には、自閉症患者の言語流暢性課題施行時の前頭葉賦活の低値とコミュニケーション障害の相関、固執の基盤となる空間的注意機能異常、社会性脳回路(下前頭回・上側頭溝など)の顕著な性差を見出した。これらの神経画像指標は、今後自閉症の三主徴に対応する遺伝子・分子基盤を効率的に見出す有力な中間表現型となる可能性がある。とくに、下前頭回は自閉症の認知異常との関連が推定されているミラーニューロンを担う部位であり、興味深い結果と考えている。現在男女差と関連する自閉症の分子機構として、性差のあるホルモンの代表であるオキシトシンに着目して研究を開始している。
【研究代表者】