海馬シナプス伝達増強における代謝活性型グルタミン酸受容体の役割
【研究分野】神経・筋肉生理学
【研究キーワード】
グルタミン酸受容体 / シナプス伝達 / 電気生理学 / 長期増強 / 長期抑圧 / 海馬 / ノックアウト / 分子生物学
【研究成果の概要】
1.海馬CA1錐体細胞からホールセル記録により興奮性シナプス電流(EPSC)を記録し、脱分極パルスを繰り返し与えるとEPSCの短期増強が見られるが、代謝活性型グルタミン酸受容体(mGluR)のアゴニストであるt-ACPDの存在下で同様のパルスを与えた場合には短期増強の時間経過が長くなった。このことから、長期増強(LTP)誘導にmGluRが関与する可能性が示唆された。2.遺伝子ターゲッティング法によりNMDA受容体のε1 (NMDAR2A)サブユニットをノックアウトしたマウスの海馬スライスを用いてシナプス伝達を検討した。ホールセル記録により、CA1領域におけるnon-NMDAシナプス応答に対するNMDAシナプス応答の比をwild-typeとmutantで比較したところ、mutantではその比が約半分に減少していた。また、CA1領域でのLTPはその大きさがmutantではwild-typeの約半分程度に減少していた。3.遺伝子ターゲッティング法によりNMDA受容体のε2 (NMDAR2B)サブユニットをノックアウトしたマウスの海馬スライスを用いてシナプス伝達を検討した。このmutantマウスは飲み込み反射が欠如するため、ミルクが飲めず生後半日以内に死亡するが、人工的に2、3時間おきにミルクを胃内に注入すると少なくとも生後3日までは正常に発育した。このように飼育したマウスの海馬スライスを用いてCA1領域におけるNMDAシナプス応答を調べたところ、mutantではnon-NMDAシナプス応答は正常に観察されたが、NMDAシナプス応答はまったく欠如していた。生後3日のwild-typeではLTPは誘導できなかったが長期抑圧(LTD)は誘導可能であった。生後3日のmutantではすべての例でLTDは誘導できず、NMDA受容体の活性化がCA1領域におけるLTD誘導に必須であると結論された。
【研究代表者】
【研究種目】奨励研究(A)
【研究期間】1995
【配分額】1,100千円 (直接経費: 1,100千円)