敗血症における至適ヘモグロビン値と腸管壁防御機構-ストレス応答酵素の役割
【研究分野】麻酔・蘇生学
【研究キーワード】
敗血症 / 輸血 / 微小循環 / ヘモグロビン / 腸管壁防御機構 / 一酸化窒素 / 一酸化炭素 / 内毒素血症 / ヘムオキシゲナーゼ
【研究成果の概要】
本研究では「輸血によるヘム負荷がストレス応答酵素ヘムオキシゲナーゼ-1(HO-1)が誘導されるような侵襲下においては過負荷となり、生体防御機構のバランスを崩す」という仮説を基に、平成14年から3年間に渡り研究を行った。正常ラットに比べ、亢進している内毒素血症ラットの腸管壁透過性は、輸血による高ヘモグロビンでさらに増強することを見出した。そこで、ストレス応答酵素HO-1をヘミン投与により予め誘導したラットを用いて検討したが、輸血ならびに血液希釈ラットを含め交換輸血後、16時間以内に全例が死亡した。死亡前のラット腸管壁におけるHO-1誘導を免疫染色したところ、少なくとも腸管粘膜へのHO-1表出は顕著ではなく、その関与が否定的となった。さらに、HO-1誘導時に同時産生されるビリルビン値は高ならびに低ヘモグロビンラット共に測定限界以下で、HO-1過剰誘導を示さなかったことから、高ヘモグロビンによる内毒素惹起性腸管壁透過性の増強は、HO-1誘導に起因するものではないといえる。さらに生体顕微鏡下により腸管粘膜微小循環を観察したところ、正常ヘモグロビンラットに比べ、高ヘモグロビンは毛細血管密度を含め微小循環を阻害する}方、低ヘモグロビンはほぼ正常に近い赤血球速度を含め微小循環ならびに毛細血管蜜度を維持した。さらに高ヘモグロビンでは、内毒素血症ラットで認める血流停止と再開を繰り返す現象をさらに増強した。一方、低ヘモグロビンラットは変化をきたさなかった。また一酸化窒素(NO)ドナーを表面灌流したところ、微小循環血流は改善し、NO合成酵素(NOS)阻害薬L-NAMEによりNOを抑制したラットにおいては、腸管粘膜微小循環血流はいずれの群においても著しく阻害された。これらの所見より、腸管粘膜におけるNOS誘導が高ヘモグロビンで高まる免疫染色所見と一致し、NOが高ヘモグロビンによる内毒素惹起性腸管壁透過性亢進に関与していることが明らかとなった。
【研究代表者】