人工酸素運搬体をツールとして用いた実験的肺腫瘍における微小循環制御機序の解明
【研究分野】胸部外科学
【研究キーワード】
転移性肺腫瘍 / 肺循環 / 微小循環 / 人工酸素運搬体 / 一酸化窒素 / 共焦点レーザー顕微鏡 / 肺微小循環 / 腫瘍循環 / 肺微少循環
【研究成果の概要】
肺末梢領域に発生する腫瘍の増殖する環境は、酸素と血流の点で他臓器の固形腫瘍と異なると考えられる。また、肺腫瘍の微小循環を明らかにする上で、syngenicな腫瘍に対するものであるのかalloやxenogenicな腫瘍に対するものであるかによって腫瘍循環の成立が異なることが予想される。転移性肺腫瘍に対する腫瘍循環の成立を調べるためには同種の腫瘍を用いた肺転移モデルが必要である。
われわれは、石英ガラス製のWindow chamberを胸壁に設置し、レーザー共焦点顕微鏡を用いて肺微小循環の観察を行った。FITCアルブミンにより血漿の可視化した。血流速度の測定は赤血球をFITCによって標識し、血流を記録した画像上でフレームごとの赤血球の動きを計測して求めた。
Donryuラットに自然発生した腹水型肝癌LY80を用い、腹水から調整した腫瘍細胞を腹腔内移植、皮下移植、尾静脈注入、開胸移植、皮下腫瘍を細切して尾静脈より注入する5種類の方法でDonryu ratに移植し、肺転移の形成能を検討した。その結果、皮下腫瘍塊を細切し、尾静脈注入を行うことにより比較的安定した肺転移巣を作成することができた。観察期間は腫瘍移植後15日から17日と考えられた。
正常肺循環では約80μの細小肺動脈から肺胞毛細血管にいたるまで微小循環を明瞭に観察することが可能であった。オキシHbの静脈内投与により、細小肺動脈の収縮と、右室圧の上昇を認めたが、HbVでは一過性の肺動脈内径の減少と一時的な右室圧の上昇が認められた。
腫瘍循環の評価系のあるLY80を用いて皮下腫瘍細切腫瘍塊尾静脈注入による肺転移巣作成が可能となったが、腫瘍が成長する段階で、血性胸水が増加し、癌性胸膜炎が進行して胸水による呼吸不全で死亡する動物がほとんどであったため、腫瘍の成長と腫瘍循環の成立を十分に観察できたとはいえなかった。このため、腫瘍内の酸素分圧、酸素代謝状態の検討は今後の課題として残った。肺転移が成立する初期の段階では、腫瘍は拡張した肺胞毛細血管に取り巻かれており、一酸化窒素を捕捉するオキシヘモグロビンの投与によっても拡張した肺胞毛細血管には変化を認めなかった。今後細胞株を変更して他の転移性肺腫瘍でも同様の所見が認められるかを検討する必要がある。
【研究代表者】