分裂病の出生季節偏りの要因を特定し予防法確立の手がかりを得るための多施設共同研究
【研究分野】精神神経科学
【研究キーワード】
統合失調症 / 出生季節 / 神経発達障害 / 環境要因 / 感染症 / 天候要因 / 地域性 / 発症予防 / 精神分裂病(統合失調症) / 出生季節性 / 気温 / 日照 / 遺伝環境相互作用
【研究成果の概要】
統合失調症発病には遺伝とともに環境要因が関与している。具体的にどんな環境要因が関与しているのかは、発病機序の解明と予防法確立のために重要な課題である。本研究では、環境要因解明の手がかりとして、統合失調症での出生季節偏り(冬季出生増加と夏季出生減少)に注目、季節に関わるどのような要因がどのような機序で発症に影響し得るかを検討した。
これまで日本人の研究では、夏季出生の減少(特に男性)に比し、冬季出生の増加は不明瞭であった(Tatsumi 他 2002)。昨年度はこの地域差を検討するため、東北地方出身者と、それ以外の患者とで比較し、出身地域を限定しない場合に比べて、東北地方出身の患者では夏季出生減少のみでなく冬季出生の増加が男女を問わず著しい傾向にあることが認められた(Tochigi他 投稿中)。今年度はさらに北海道と九州出身の患者データとの比較を行った。その結果、九州出身患者に比較すると東北地方出身患者は出生季節の偏りが著しく、特に男性ではその傾向が強かった(冬季と夏季5ヶ月の出生の割合は東北地方出身男性患者では48%と36%、九州出身男性患者では44%と42%)。しかし意外なことに北海道出身患者では、出生季節の偏りは九州出身患者よりも小さく、冬季・夏季各5ヶ月の出生の割合は男性患者でも43%と42%で、夏冬の差が認められなかった。この理由には、屋内暖房状況の北海道とそれ以外の地方との違い、感染症の流行時期の違い、対象規模の問題など多くの可能性が考えられるが明らかでない。現在検討中である。
なお具体的な環境要因についてこれまでの諸文献をreviewして検討した結果では、従来注目されがちであったインフルエンザ感染より、むしろポリオ等他の感染症や外気温・日照時間などの気象条件について詳細な検証を行う必要性のあることが示唆された(Tochigi 他 2004)。また、出生季節が発病につながるメカニズム解明の手がかりをえるため、性格等脳機能を反映する指標が出生季節により異なるか検討した。その結果健常対照者でも、精神疾患発病との関連報告がある同調性の冬季出生での低下可能性が示唆された(Tochigi 他 印刷中)。また法務省施設での研究に協力した結果であるが、窃盗などの単純犯罪は統合失調症と似た出生季節性を示すが、殺人・暴行などのよりactiveな暴力犯罪では、むしろ反対の出生季節性を示すことが示唆された(Yoshinaga 他 準備中)。今後さらに検討を重ね、出生季節と関連する統合失調症の環境要因の具体化とメカニズムの解明をはかりたい。
【研究代表者】