近代イギリスにおける感受性文学と誤認―女性、言語、社会制度
【研究キーワード】
感受性 / 誤認 / 教育 / 身体 / 植民地 / チャリティ / 共感 / 怒り
【研究成果の概要】
本課題では、18世紀イギリスにおいて浸透した感受性文化を経て広く共有され、またコミュニティや社会のあり方、植民地体制下の「他者」との関係を規定することにもつながった感受性文学やその関連言説を中心に研究を進めている。人間の美徳であるはずの感覚や感性に根ざした感受性(sensibility)が「誤認」(misconception)を生み出す過程を医学や経験論、身体論を含めて多面的に分析し、その文化的、社会的、政治的意味と問題を、18世紀末から19世紀前半の「感受性の時代」および「ロマン主義時代」のイギリス文学、特に女性文学に焦点を当てて、解明してきた。各メンバーは、これらの過程をジェンダーや身体、教育、植民地支配といった側面から明瞭にするべく、研究を行っている。具体的には、次の四つの問題意識を持ち研究をしてきた。(1)「誤認」が18世紀以来感覚や感性に本質的な問題として認識されていったことがいかに「リアリズム」の成立に関わっているかという事実認識の揺れの問題、(2)「共感」、「慈愛」、「愛情」という慈善行為がどのように宗教的、道徳的偏見などによって偏向されたか、他者に対する誤認あるいは認識・感覚の欠如が作家によっていかに言語化されたかという社会・教育の問題、(3)「空想」や「想像力」といった文学的・芸術的美徳とも連動していた医科学言説がいかに社会制度や伝統の根幹とも地続きであったかという身体的な問題、(4)文化的他者の表象が読者の「共感」と同時に「偏見」を喚起する可能性を孕む問題。令和2年度の予算を令和3年度に繰り越したため、研究内容は二年分である。
【研究代表者】