生体におけるras群遺伝子の機能的重複性の解析
【研究分野】実験病理学
【研究キーワード】
K-ras / H-ras / N-ras / 標的遺伝子置換 / ES細胞 / ジーンターゲッティング / ノックアウトマウス / マウス
【研究成果の概要】
本研究は、Rasタンパク質の個体での生理機能を知るため、H-ras、N-ras、K-ras遺伝子欠損マウスの作成を目的とした。その結果、H-ras欠損マウスとN-ras欠損マウスが正常に発生、成長するのに対して、K-ras欠損マウスは心臓の形成不全による胎生致死となり、心筋細胞の増殖にK-Rasが必須であることが分かった。また、H-RasがNMDA受容体のチロシンリン酸化の制御を介して海馬CA1でのNMDAシナプス伝達、さらにLTPの調節を行っていることを明らかにしてきた。これらの事実から、各種臓器において3つのRasタンパク質に役割の違いがあることが分かった。しかし、さらに各ras遺伝子欠損マウス同士を交配し、ras多重遺伝子欠損マウスを作成した結果、N-rasホモ型欠損で且つK-rasヘテロ型欠損マウスは致死となること、K-ras欠損マウスにH-ras欠損が加わると胎生致死の時期が早期に移行すること等から、3つのRasタンパク質の間には重複する機能もあることが判明した。これは、K-ras遺伝子欠損マウスにヒトのH-ras遺伝子を導入したトランスジェニックマウスが、正常に発生、成長することからも強く示唆された。さらに本研究は、2段階のジーンターゲッティングから成る標的遺伝子置換法を計画した。これは我々が開発した標的遺伝子置換法を用いて、K-ras遺伝子の第2エクソン内にH-ras cDNAを導入し、K-ras遺伝子発現制御下においてH-Rasタンパク質を発現するマウスを作成するものである。第1段階の、K-ras遺伝子の相同組換えは、順調に進行しマウスも作成された。しかし、第2段階のK-ras遺伝子をH-ras遺伝子に置き換える過程が難航し、未だ進行中である。一方、ヒトのH-ras遺伝子を導入することにより、胎生致死であるK-ras遺伝子欠損マウスやras多重遺伝子欠損マウスが救われて生存することから、CRE-loxPシステムを用いて遺伝子発現をコンディショナルに制御できるトランスジェニックマウスを作成した。このトランスジェニックマウスと胎生致死であるK-ras遺伝子欠損マウスとを交配した結果、生存するK-ras遺伝子欠損マウスが認められた。さらに、胎生致死であるras多重遺伝子欠損マウスが救われるかどうか交配を進めている。このトランスジェニックマウスは、任意の組織あるいは時期において導入遺伝子を欠失し、Rasタンパク質が全く存在しない状態を解析することができる。今後、胎生致死のため解析できなかった生体での生理機能と特異性を解明していきたい。
【研究代表者】
【研究分担者】 |
中尾 和貴 | 東京大学 | 医科学研究所 | 寄付研究部門教員 | (Kakenデータベース) |
饗場 篤 (饗庭 篤) | 東京大学 | 医科学研究所 | 助教授 | (Kakenデータベース) |
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【研究種目】基盤研究(C)
【研究期間】1998 - 2000
【配分額】3,200千円 (直接経費: 3,200千円)