ブリ類のホットスポット東シナ海から日本産ブリ類の由来と進化を探る
【研究キーワード】
ブリ属魚類 / バイオロギング / ゲノム解析 / 系統類縁関係 / 産卵生態
【研究成果の概要】
ブリ属魚類は日本を代表する漁獲魚かつ養殖魚であり,その野生集団の遺伝的構造を理解することは,ブリ属魚類の持続的利用に必須である。さらに近年,漁獲現場ではブリ属の種間交雑現象が認められており,これにより遺伝構造把握が困難となっている。この問題を解決するためには,ブリ属の産卵生態を明らかにするとともに,種間差を識別する遺伝マーカーの取得が必要である。本研究では,日本で漁獲されるブリ属魚類の主産卵場である東シナ海をフィールドとした産卵生態調査と,ブリ類種内の遺伝的構造の理解,および種間雑種現象の把握を目指す。
ゲノム解析の結果,東シナ海産カンパチは基本的に単系統であることが再確認された。ブリ属の幼期は種判別が難しく,さらに交雑魚では成魚でも親種との識別が難しい場合がある。新型コロナ禍で台湾での採集ができなかったため鹿児島産ヒレナガカンパチを標本に加えて全ゲノム配列データを解析し,種判別および交雑の有無を判別する遺伝マーカーを開発した。さらに,これを生態班のサンプルに適用することで,採取仔魚や標識放流魚の種や雌雄を判別した。
長崎県平戸市でヒラマサ12個体を標識放流し,これまでに2個体の行動データを得ることができた。鹿児島県種子島・屋久島海域からカンパチ成魚5個体に記録計をつけて放流したが,海況が悪く回収作業を行えず、人工衛星経由でデータの一部のみ回収できた。2019年3月に長崎県五島市崎山沖から放流し再捕されたブリ5個体のうち2個体は、通常のブリの回遊パタンとは異なり、対馬海峡南部から五島灘を経てトカラ列島の間を南北方向に移動した。ブリのなかには、夏季も東シナ海に留まり中層で越夏する個体が複数いることが示唆された。2020年6-7月に対馬海峡においてブリ属仔魚の採集を行った。総計60個体のブリ属仔魚を採集したが,いずれもブリと同定された。
【研究代表者】