スズキ資源の安定性を支える柔軟な河川利用生態の解明
【研究キーワード】
スズキ / 両側回遊 / 安定同位体 / 耳石微量成分 / バイオテレメトリー / 部分両側回遊 / 森里海連環学 / 河川利用 / 耳石解析 / 安定同位体比分析 / 環境DNA分析 / 耳石元素
【研究成果の概要】
沿岸漁業漁獲量が減少し続ける中で、スズキの資源水準が長期的に安定している原因が、本種による河川利用にあるという仮説を検証することを研究目的としている。仙台湾、丹後海、別府湾の3水域をフィールドとして、どの発育段階や年齢で、どのくらいの割合が、どのようなタイミングで河川を利用するのかという生態特性を調査し、繁殖と生き残りにおける河川利用の生態学的意義を明らかにする。
3水域で採集したスズキ成魚84個体(標準体長388-736mm、年齢3-23歳、仙台湾21個体, 丹後海38個体, 別府湾25個体)の耳石を年齢査定し、耳石Sr/Ca比をEPMAにより点分析した。その結果、幼稚魚期(0歳魚期)に河川(汽水域+淡水域)を利用した個体の割合は、仙台湾52%、丹後海61%、別府湾36%であった。河川利用個体の割合は年齢とともに減少し、0歳魚の平均51%から5歳魚では17%となった。成熟する3歳前後まで、河川利用個体に雌雄差は見られなかったが、4歳以降は雌の割合が増加した。2歳以上で河川を利用した個体のうち、約8割は幼稚魚期にも河川を利用しており、幼稚魚期に河川を成育場とした個体が成体でも河川に遡上する傾向が認められた。
スズキ成魚の行動と環境要因との関係を調べるため、由良川の河口から48km上流までの12地点に超音波受信機を設置した。2020年10月-2021年3月の間に由良川及び近隣の河川で釣りにより採集したスズキ成魚24個体に超音波発信機を装着して、由良川中流域に放流した。10-11月に放流した17個体中追跡できた13個体では、7個体が12月初旬までに降海し、6個体が冬季にも由良川に残留した。降海した7個体のうち3個体は翌年春-夏季に由良川に再遡上した。耳石Sr/Ca比分析とバイオテレメトリーデータを総合することにより、スズキ成魚の河川利用行動の詳細が解明できると期待される。
【研究代表者】