多文化共生社会の流動化と新しい人権政策・社会政策・入国管理政策に関する国際比較
【研究キーワード】
多文化主義 / 政治哲学 / 政治史 / 政策研究 / 移民 / 多文化共生 / 社会政策 / 難民危機 / 労働政策 / 年金政策 / 人権政策
【研究成果の概要】
本研究は、多文化共生社会論を巡って、非正規入国者への対応が本格化する2010年代以降に生じた変化を、人権政策・社会政策・入国管理政策という3つの政策領域における多様な改革論争に則しつつ解明することを目指すものである。その中で、本年度は、非正規入国者の中長期的な定着に関わる社会政策の改革論をとりあげ、以下の諸問題の考察を行った。
(1)本研究ではまず、政治哲学・政治史学等の領域で行われた、多文化共生社会における近年の社会政策改革を論じた多様な先行研究を幅広く収集し、その特色や問題点を研究参加者全員で批判的に検討した。その結果、①従来の先行研究では、労働政策に関して、主として非熟練労働者の正規労働力化問題を巡る、多数派側の非熟練労働者や失業者などの反応を一般化しつつ、非正規入国者の労働政策全体に関する多数派側の態度を、極めて非寛容なものと把握する理解が通説化している、②また年金政策に関する先行研究では、年金制度を国民の相互扶助と連帯の産物と理解し、非正規入国者の年金加入権を否定的に解する議論が多数を占めている、等の重要な知見が判明した。
(2)更に本研究では、2010年代以降の北米・西欧・東欧諸地域において、多文化共生社会の社会政策に生じた具体的変化や、その諸要因等について考察した。その結果、①労働政策に関しては、非熟練労働者については、従来と同様正規労働力化に否定的な議論が支配的である一方、一定の高度技能を有する労働者に対しては、むしろ正規労働力としての積極的な受け入れを目指す議論が台頭しつつある、②年金政策に関しては、こうした外国人労働力の積極的受け入れ策の増加に加え、各国の少子高齢化に伴う年金負担者の減少対策という観点からも、年金への正式な加入を模索する国家が増加しつつある、等の重要な知見が判明した。
【研究代表者】