タイ国東北部における農民参画による稲品種の採用と乾田直播技術の開発
【研究分野】環境農学
【研究キーワード】
天水田 / 農業技術 / 直播 / 農家調査 / 品種 / タイ / カンボジア / イネ / ファーミングシステム研究
【研究成果の概要】
東北タイの非灌漑稲作地帯での「直播栽培」の生産の安定・多収化のために、農家調査、参加型親子試験、栽培試験を行い以下の知見を得た。(1)天水田環境を、旱魃が起こりやすい上位田、洪水が起こりやすい下位田、大半を占めるこれらの間の中位田にわける、(2)中位・下位田での良好な生育条件の場合、播種量を30kg/haまで下げても減収しない、(3)感光性の強い中生天水田品種(KDML105など)は一部の下位田を除いて極端な早播きは減収につながる、(4)天水田品種の中位田・下位田で41/ha以上の多収化のためには、出穂期以降の乾物生産が低下しないよう後期重点型の施肥体系が必要である、(5)しばしば省略されるハロー(整地)作業により、特に雑草の多い圃場ではある程度の減収回避効果がる、(6)条播と除草の組み合わせにより、水条件の悪い圃場でも乾田散播栽培に対して増収効果がある。(7)中位・下位田での良好な条件の場合、早生品種でも慣行並みの多収を得られるものがある。今後の課題として、(2)との関連で、条件の悪い環境での播種量は、圧播きにより収量が改善される場合もあるがそうでない場合も多く、複雑な要因を整理してモデル化する必要性、(6)の条播栽培の普及のためには、より簡便に作業を行える条播用機械が必要であることが示唆された。
企業を中心としたバイオテクノロジーの発展、2004年の食糧農業植物遺伝資源国際条約の発効の影響を受け、タイでもジャスミンライスの持ち出しに制限を設け、「有機栽培米」などの付加価値を高める戦略を進めている。一部のNGO在来品種の保存と利用を行っているが、全体としては、隣国カンボジアと比較して、稲品種の農家レベルでの多様性は低い。今後の米の国際マーケットの拡大、価格の変動、バイオテクノロジーの開発と社会受容など不確定な要因が多い中で、タイのイネの遺伝資源管理と稲作の変化は引き続き注目が必要である。
【研究代表者】