記憶の形成と適応行動生成の制御メカニズム
【研究キーワード】
記憶と学習 / 線虫 / 化学感覚 / 塩走性 / 味覚 / 走化性 / ClCチャネル / 適応行動 / シナプス可塑性
【研究成果の概要】
環境中の化学物質に起因する感覚を化学感覚と呼ぶ。ヒトではおもに嗅覚と味覚がこれに該当し、私たちはそのはたらきによって香りを楽しんだり食物を味わったりすることができる。我々は、化学感覚とその記憶に基づく学習の仕組みを遺伝子レベルで明らかにすることを目指している。化学感覚に関わる受容体やシグナル伝達経路は、生物種が異なっても比較的良く保存されている。また学習の仕組みを調べるには、行動を定量的に評価でき、遺伝学的研究手法が整備され、個々のニューロンや神経回路の活動を容易にモニターできるモデル生物の利用が適している。そこで本研究では、おもに線虫C. エレガンスの味覚学習(塩濃度走性)の実験系を用い、学習変異体の原因遺伝子の解析を通じて、経験に依存して行動が調節される仕組みを分子・細胞レベルで解明する。この目的のため、おもに以下の課題に取り組んだ。(1)シナプス伝達極性が反転する機構の解明、(2)塩濃度走性に関わる新規遺伝子の機能解明。
本年度は、味覚神経(ASER)から一次介在神経(AIB)へのシナプス伝達の符号が飼育塩濃度に依存して反転する機構を調べ、その成果を論文として発表した。ASER神経からAIB神経へのシナプス伝達は、飼育されていた塩濃度が高いと興奮性、低い場合には抑制性を示すことがわかっていた。いずれの伝達にもASER神経からのグルタミン酸の放出と、AIB神経で発現するAMPA型グルタミン酸受容体が関与する。これに加えて、抑制性の伝達にはAIB神経で機能するグルタミン酸依存性塩化物イオンチャネルが機能することが明らかになった。また、塩濃度勾配上における個体の移動方向制御に関わる神経ペプチドの機能を明らかにするため、遺伝学的アプローチで関連遺伝子を探索した。また、飢餓条件の行動に関与する神経ペプチドを同定した。
【研究代表者】
【研究種目】基盤研究(C)
【研究期間】2019-04-01 - 2023-03-31
【配分額】4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)