熱帯降雨観測衛星データによるグローバルな土壌水分・植生量計測システムの構築
【研究分野】水工水理学
【研究キーワード】
リモートセンシング / 土壌水分 / 熱帯降雨観測衛星 / 大気陸面相互作用 / 衛星リモートセンシング / 地球観測 / データベース / 地球環境
【研究成果の概要】
能動型マイクロ波リモートセンシングによる土壌水分推定手法として,TRMMに搭載された降雨レーダ(PR)を利用した土壌水分推定手法を開発した.降雨観測用レーダとしては波長の比較的短いKuバンドの周波数を利用しているため,降雨による減衰を評価する必要性から,地表面の後方散乱係数sigma0を観測・記録しているが、これを土壌水分推定に利用した.昨年度までの結果をふまえて,igma0に植生がどう影響を与えているのかを考察した.レイヤーモデルとモザイクモデルでは,どちらも形式的な表現は同じになるが,とくにPRの場合,使用するマイクロ波周波数が地表面観測には高いことやサヘルなど一部地域でしかsigma0の季節変動に植生の影響がみられないことから,植生被覆率fをパラメータとしたモザイクモデルで考えるのが適当である.このモデルを利用して,植生被覆率fと土壌面からの散乱強度sigma0_sのどちらがsigma0に強く影響するかをみると,入射角が小さい方がsigma0_sの影響が大きい.また,入射角12度の場合に植生被覆率$f$の影響が最小となる.そこで,まず植生被覆率の影響の大きい入射角3度のsigma^0を利用してfを決定し,次に毎回の入射角12度でのsigma0からsigma0sをもとめ,Fung(1992)による土壌面の散乱モデルIEM(=Integral Equation Model)により土壌水分に変換するアルゴリズムを作成した.月単位の結果は良好であったが日単位の実用化にはやはり観測頻度が問題となった。次に,同じくTRMMに搭載された受動型のマイクロ波放射計TMIによる土壌分推定アルゴリズムを開発した.既往の研究よりも,とくに植生層の影響を物理的な手法に基づき評価することを目的とし,土壌・植生・大気を結合した放射伝達モデルを作成し利用した.大きく8種類の推定手法を用いて,それぞれに土壌水分を月単位で推定し,その季節変動を比較した.工夫した最適化手法により土壌水分推定が可能な割合を大きく増やすことができた.R, TMIを利用したどちらの手法もサヘルやアジアモンスーン城など熱帯域の主要な地域で季節変動の再現,中緯度帯での降雨イベントに対応した日単位変化の再現などに成功している.日内変動などをみると,TMIの場合には完全には地表面温度の影響が消えていないことから,この影響のほとんどないPRの方が優れている.また,PRの方がアルゴリズムが簡潔で,外部データ(NDVIなど)を一切使用しないで済むという点で優れている.しかし,近い将来の衛星観測計画を考えると,観測頻度やセンサの継続性の面からTMIなどマイクロ波放射計による土壌水分推定は必要である.このため,TMIの季節変動をPR季節変動にあうように放射伝達モデルのパラメータを決定し,TMIから日単位あるいは数時間単位で推定を行うといった複合アルゴリズムの開発が今後の課題としてあげられる.これらのアルゴリズムによって作成された過去数年分の全球土壌水分データセットは近日インターネット上で公開される。
【研究代表者】