中世禅院を拠点に流通した建築の形態・空間・技法に関する学際的・対外交渉史的研究
【研究キーワード】
禅宗 / 禅宗様 / 山水 / 空間 / 建築 / 禅院 / 禅宗寺院 / 様式 / 形態 / 技法
【研究成果の概要】
本年度もコロナ禍のため、一部の日本国内での調査を除き、海外での現地調査をすることが出来なかった。しかし、本来の課題を関連する研究テーマへと臨機応変に再設定しながら、国内で遂行可能な範囲で研究の進捗を見ることができた。
野村は「唐様=禅宗様」の対義語としてしばしば史料上にも登場する「和様」という言葉をめぐって、建築史学史的観点から言説の系譜を明らかにし、本課題とも大きく関わる基礎的研究の一環として『空間史学叢書 聖と俗の界面』の特集記事としてまとめた。併せて、建築史学会にて記念シンポジウム「〈和様〉建築の再検討」を企画・運営し、和様および折衷様の微細な検討に向けた議論を行った。溝口は室町時代に遡る二階建て建築を戦国大名居館大内館に確認し、近世武家屋敷の庭園にみられる二階建て建築が、その系譜に連なる存在であること、また大名家江戸上屋敷の大書院平面が室町時代以来の平面形式を伝えていることを指摘した。川本慎自は「中世禅僧と造営・土木知識」(『日本史研究』715号,2022年)において、室町期の相国寺僧による中国史書の講義録(『史記桃源抄』)に見える北山殿・金閣造営に関わる記述から、中世禅僧がいかにして中国の建築物に関する知識を受容していたかを考察した。塚本は唐末・五代における宗教絵画と場所の問題を中心に、貫休羅漢図信仰の広がりと空間性の問題を考察した。
日本の禅院を結節点に移入し独自に解釈された、さまざまな知識体系の一端が明らかになりつつある。また、中世建築様式のひとつである「禅宗様」という言葉をめぐる包括的な再検討や、現地調査をもとにした内実の再検討などが、野村・溝口・川本により、既往研究のもと多角的に進みつつある。
【研究代表者】