自然と関わる「経験の絶滅」スパイラル:全国スケールでの実態解明と緩和策の提案
【研究キーワード】
都市生態学 / 生物多様性 / 経験の消失 / 文化的生態系サービス / 保全生態学 / 環境心理学
【研究成果の概要】
複数の大規模アンケート調査を行い、「経験の絶滅スパイラル」の実態把握と生物多様性保全および人の健康に与える影響を調査した。実態把握では、20代-70代の方を対象に調査を行い、日本においてはここ50年の間に自然との関わり合いのレベルが極度に低い人の数が倍増していることが明らかになった。つまり、「経験の絶滅」が急速に進んでいることが分かった。生物多様性保全に与える影響では、幼少期の自然体験が生物多様性保全行動(消費やライフスタイル等に関する18の行動)に与える影響を調べた。その結果、幼少期に自然体験を全くしていない人と比べて、「月に一回以上」体験していた人は有意に保全行動をすることが分かった。逆に、「半年に一回」以下しか体験していなかった人は、保全行動をほとんどしなくなることが分かった。以上の結果は、(1)現在日本で進んでいる「経験の絶滅」は生物多様性保全に負の影響を及ぼし得ること、(2)月に一回以上の自然体験を促進することはこの負の影響を低減するために重要であることを示唆している。
また、人の健康に与える影響では、コロナ禍における自然体験とメンタルヘルスの関係を調べた。2020年に東京都で調査を行った結果、窓から緑が見える人や都市緑地を頻繁に利用している人は、コロナ期間中にうつ症状を発症しにくいことが明らかとなった。この結果は、都市の緑や人と自然との関わり合いは、現在世界的に増える精神疾患を予防する効果があることを示唆している。
【研究代表者】