帝政前期ローマにおける政権交代と過去の記憶
【研究キーワード】
古代ローマ / 集合的記憶 / 記憶 / 皇帝 / ローマ皇帝 / 文化的記憶 / 記録 / 歴史叙述 / 碑文
【研究成果の概要】
今年度は、まず5月に第71回日本西洋史学会の小シンポジウム「古代地中海世界における知の動態と「文化的記憶」」において、「ローマ皇帝の「記憶」の構築」と題した報告を行った。本研究課題は帝政前期ローマで繰り返された皇帝位をめぐる政治的な「危機」が、いかに歴史に織り込まれていったのかという問題を分析することで、古代ローマにおける過去の歴史認識と集合的記憶の改変過程を明らかにすることを目的としているが、この報告では、死後に「悪帝」として断罪された皇帝のモニュメントの破壊を通じた新たな「文化的記憶」の構築によって、生前の「記憶」を書き換えという行為が担っていた社会的機能の分析と、そこから立ち現れる帝政前期ローマ社会の「記憶」への向き合い方の解明を試みた。
そこで、2020年度に刊行した書籍『ダムナティオ・メモリアエ-作り変えられたローマ皇帝の記憶-』の内容を踏まえつつ、集団の「記憶」を構築する場所でもあった公共空間における彫像の設置と管理、また撤去に対して同時代人がどのように認識していたのかを、叙述史料や法史料から分析することで、公共の場に設置されたモニュメントの重要性の低下と意味の変容が明らかになり、研究課題の中で焦点をあてている「集合的記憶」の構築についての考察をより深めることができた。
また、報告に関連する論文も2022年度中の刊行が決まっており、そこでは都市ローマに残された古代の碑文が、中世のローマ案内書でいかに再録され、そこでは古代のいかなる「記憶」が継承されたのかを論じており、より時代を広げたモニュメントを通じた「記憶」の構築を扱う内容となっている。次年度の研究では、公共空間の管理についての今年度の研究を踏まえ、特に2-3世紀の「集合的記憶」について研究を進展させる予定である。
【研究代表者】
【研究種目】若手研究
【研究期間】2019-04-01 - 2023-03-31
【配分額】2,470千円 (直接経費: 1,900千円、間接経費: 570千円)