中国横断山脈とマレー半島をつなぐ植物回廊:植物の高い種多様性と南北移動史の解明
【研究分野】生物多様性・分類
【研究キーワード】
分類学 / 植物 / 植物の種多様性 / 植物の南北移動史
【研究成果の概要】
2019年度は、2回の海外植物調査を行うことができた。1回目は、中国科学院昆明植物研究所との共同で、6月に中国雲南省南部の西双版納で調査を行った。モンラーの標高約560mの熱帯雨林から、モンハイの標高約1700mのブナ科を中心とした熱帯山地常緑広葉樹林まで、標高差約1140mの範囲内の11ヶ所の植物を調べ、34科58属の維管束植物を同定し、合計137点のさく葉標本を作製した。2回目は、タイの国立公園―野生生物―植物保全局のBKFとの共同で、11月にタイ中部のサラブリで調査を行い、6科12属の被子植物を同定し、合計27点のさく葉標本を作製した。
今年度は、特にヤマノイモ科ヤマノイモ属に関して大きく進展した。ヤマノイモ属は熱帯域を中心に約630種を含む大きな属であるが、本研究では多くのアジア産種を解析に加えることに成功し、合計183種(全属の約29%)の大規模分子系統樹を構築した。さらに、綿密な形態観察を行い、この大規模分子系統樹に基づいて詳細な形態形質の進化を推定し、初めて分子形質を使ってヤマノイモ属の分類を再検討した。その結果、ヤマノイモ属に2亜属20節(4新節と1新ランクを含む)を認め、ヤマノイモ属の多様性の構造を明らかにした。
さらに、コショウ目の大きな(種数が多い)3属であるウマノスズクサ属 (約450種)、コショウ属 (1050-2000種)、サダソウ属 (1000-1600種) の新世界と旧世界の間の移動の歴史に関して、ウマノスズクサ属では過去に何回か移動が起こったと考えられる一方、コショウ属とサダソウ属では第三紀中新世に新世界から旧世界への移動がただ一度だけ起こったと推定できた。
また、ツユクサ科、キンバイザサ科、クサスギカズラ科のジャノヒゲ属やPeliosanthesなどのさく葉標本や試料も多く集め、重点的に解析を進めている。
【研究代表者】