ヒコナミザトウムシ交雑帯における核型とミトコンドリアDNAの変異パターン
【研究分野】系統・分類
【研究キーワード】
交雑帯 / 染色体 / 種分化 / ミトコンドリアDNA / ザトウムシ / クモガタ網 / クモガタ綱 / 地理的変異 / 核型分化
【研究成果の概要】
ヒコナミザトウムシNelima nigricoxaの核型の交雑帯の性質や形成過程を明らかにする目的で,近縁種をも含めた各地の集団について核型,アロザイム,mtDNAの分析を行なった。本種には西から2n=20(九州・四国・旭川以西の中国地方),2n=18a(鳥取県大山の東側と近畿地方),2n=18b(岡山市の北部),2n=16(旭川以東の中国山地),2n=22a(伊豆箱根),2n=22b(三浦半島),2n=22c(千葉県清澄山)の7核型が識別された。うち,2n=20/18a,2n=18a/16,2n=16/18aはそれぞれ互いの分布域の接点において幅数km以内の交雑帯を作る。鳥取県関金町の2n=16/18の交雑帯中の1集団では,2n=17の個体の比率がHardy-Weinberg期待値よりも有意に小さいことがわかった。2n=16の個体を1とした場合の2n=17の個体の相対適応度は0.4で,大山の2n=18と2n=20集団の交雑帯中の1集団(大山川床)で得られている相対適応度0.7と比べてかなり低い。これは,2n=16/18の核型の差に関わっている染色体(2n=16の第1染色体)が,2n=18/20の差に関わっている染色体(2n=18核型の第3染色体)と比べて著しく大きいためかもしれない。
本種と近縁種の各地の集団について,mtDNAにコードされているCOI遺伝子の断片(約1kbp)の塩基配列を比較した。分析の終了しているのは7集団のみだが,それは(ヒコ千葉県清澄山2n=22,オオ札幌市北大構内,2n=22)(オオ山口県徳仙の滝2n=22(ヒコ山口県徳仙の滝2n=20(ヒコ船上山2n=18(ヒコ大山槙原2n=20,ヒコ2n=20大山種原))))という系統関係となり、各枝を支持するブ-ツストラップ確率は全て100%であった。西日本のヒコナミザトウムシ類の集団間では,大山の2n=20の集団とその東に近接する2n=18(船上山)の間,あるいは山口県徳仙の滝の2n=20の集団との間では遺伝的に分化していることがmtDNAの塩基配列レベルでも確認できた。
【研究代表者】
【研究分担者】 |
上島 励 | 東京大学 | 大学院・理学研究科 | 講師 | (Kakenデータベース) |
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【研究種目】基盤研究(C)
【研究期間】1996 - 1997
【配分額】2,200千円 (直接経費: 2,200千円)