環形動物門の初期進化に関する分子系統学的研究
【研究分野】系統・分類
【研究キーワード】
環形動物門 / 多毛類 / 貧毛類 / ヒル類 / 有帯類 / 分子系統学 / エロンゲーションファクター1α
【研究成果の概要】
環形動物門を構成する多毛類・貧毛類・ヒル類の系統関係を分子情報に基づいて明らかにする目的で分子系統学的な解析をおこなった。まず研究の目的に最も適した分子種を選ぶために、高次分類群の系統解析によく用いられる18SリボゾームRNA、エロンゲーションファクター1α(EF-1α)、ミトコンドリアDNAのチトクロームオキシダーゼI(COI)の各遺伝子についてその部分配列を決定し、系統解析をおこなった。ブートストラップ確率と動物門の分離の再現性を指標として評価したところEF-1αが、本研究にもっとも適した分子であることが示された。8種の多毛類、2種の貧毛類(フトミミズとイトミミズ各1種)、1種のヒル類、軟体動物門の腹足類2種と斧足類1種、ハオリムシ類1種についてEF-1α遺伝子のほぼ全領域の塩基配列を決定し、既知の筋足動物と脊椎動物のデータを加え、推定されるアミノ酸配列に基づき系統を解析した。その結果、多毛類の種間には大きな変異があるのに対し、貧毛類の中で系統的に離れたフトミミズとイトミミズの間の差は、同じ科に属するフサゴカイとハイゴカイの差より小さく、両者は明確な単系統群を形成した。さらにヒルは貧毛類の姉妹群となり、有帯類(貧毛類+ヒル類)の単系統性が高いブートストラップ確率により支持された。有帯類と多毛類の系統関係については、十分な系統的制度を持つ解答が得られなかったが、ゴカイ科のNeanthes japonicaが他のゴカイより有帯類に近縁である可能性が示唆された。このことと、多毛類が有帯類に比べ遙かに多様である点から本研究の結果は、『貧毛類とヒル類の共通祖先は多毛類の中から分岐してきたもので、多毛類は側系統群である』とするNielsen(1995)の説を支持する。
【研究代表者】
【研究種目】奨励研究(A)
【研究期間】1995
【配分額】800千円 (直接経費: 800千円)