ミクロの視点から解明する乳児期の菌叢形成メカニズム:酵素機能解析の新展開
【研究キーワード】
共生 / 腸内細菌 / 母乳オリゴ糖 / 代謝物 / 転写因子 / ビフィズス菌 / 共生・共進化 / ヒト母乳オリゴ糖 / ムチン糖鎖
【研究成果の概要】
近年の腸内細菌研究の発展は目覚ましいが、申請者のように腸内細菌側からアプローチする研究例は少数であり、ほとんどの研究は宿主動物側からのアプローチである。宿主側からの研究ではオミクス技術が多用されているが、それだけで細菌の生理機能や代謝機能を理解するのは難しい。無論、オミクス技術が果たしてきた役割は大きいが、結果として現在の腸内細菌研究は、16S rRNA遺伝子解析による細菌叢の把握やメタゲノムデータ解析による代謝機能推定に依存する傾向があると感じられる。本研究では、ビフィズス菌の母乳オリゴ糖代謝に関わる遺伝子群に着目し、その構造機能を詳細に明らかとすることでホモログ間の機能的差異を明らかとすること、実際にその機能的差異が菌叢形成に影響を与えていることを明らかとすることを試みている。2021年度においては、ラクト-N-テトラオーストランスポーターおよび転写因子NagRに着目して研究を進めた。その結果、母乳オリゴ糖トランスポーターGltAにおいては、ラクト-N-テトラオースを効率よく取込むバリアントと取込むことのできないバリアントが存在しており、その機能的差異が3アミノ酸配列の差異によって決定されることをin vitroで明らかとした。高効率取込みタイプのバリアントは乳児糞便サンプルにおいて濃縮されており、離乳と同時に低効率取込みタイプのバリアントと量的差異が無くなることを見出した。また、Bifidobacterium infantisの母乳オリゴ糖代謝遺伝子のグローバルレギュレーターとしてNagRを同定した。nagR変異株においては、多くの母乳オリゴ糖代謝遺伝子の転写が上昇しており、NagRがリプレッサーとして機能していることが明らかとなった。
【研究代表者】