揮発性が異なる元素の気化に伴う同位体分別が拓く環境地球化学の新展開
【研究キーワード】
エアロゾル / XAFS / 同位体 / 鉄 / 同位体分別 / SEM / ICP-MS / 化学種解析 / 人為起源鉄 / 表層海水 / 化学種 / 金属元素 / 気化
【研究成果の概要】
海洋における生物一次生産の制限要因の一つとして溶存鉄の不足が挙げられる。海洋表層への主要な鉄供給源として鉱物ダスト等の自然起源鉄が挙げられる一方、人為起源鉄は発生量は少ないが海水への溶解率が高く、重要な鉄の供給源となる可能性がある。しかし、人為起源鉄が表層海水中の溶存鉄に及ぼす影響は未だ不明瞭である。本研究では人為起源鉄が自然起源鉄に対して非常に低い鉄安定同位体比(δ56Fe)を示すことに着目し、様々な人為起源鉄の排出源付近の試料を分析し、低いδ56Feを示す要因を考察した上で、海洋エアロゾルのδ56Feから人為起源鉄の寄与の推定を行うことを目的とした。
人為起源鉄の排出源付近で採取された微小粒子は、燃焼温度の低い野焼きを除き、起源物質や粗大粒子に対して2-4‰程度低いδ56Feを示した。それらの微小粒子中には、人為的な高温燃焼で生成する10-100 nm程度の球形の鉄(水)酸化物粒子の凝集物が見られ、粒子中に鉄よりも難揮発性のカルシウム等が共存していなかった。これらから、高温燃焼で気化を経ることで同位体分別が起きたことが示唆された。気化した成分のδ56Feは-4 - -5‰と見積もられ、レイリー分別の式から考えると、(i)鉄が難揮発性で気化の割合が低いことと、(ii)高温で分子量の大きな鉄化学種として気化することが人為起源鉄に見られる同位体分別の要因であることが示唆された。
海洋エアロゾル試料の微小粒子は、粗大粒子よりも1-2‰程度低い同位体比を示し、人為起源鉄の影響があることが示唆された。人為起源鉄のδ56Feの代表値として-4‰を仮定し、溶解率を加味して寄与を計算すると、エアロゾル中の溶存鉄のうち最大30-50%程度が人為起源鉄であると推定され、人為起源鉄が海洋表層への溶存鉄の供給源として重要である可能性がδ56Feに基づいて示唆された。
【研究代表者】
【研究分担者】 |
板井 啓明 | 東京大学 | 大学院理学系研究科(理学部) | 准教授 | (Kakenデータベース) |
足立 光司 | 気象庁気象研究所 | 全球大気海洋研究部 | 主任研究官 | (Kakenデータベース) |
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【研究種目】基盤研究(A)
【研究期間】2018-04-01 - 2022-03-31
【配分額】45,110千円 (直接経費: 34,700千円、間接経費: 10,410千円)