分光実験手法を組合せた高温超伝導体におけるキャリアのダイナミックスと構造の研究
【研究分野】無機工業化学
【研究キーワード】
高温超伝導体 / 反強磁性絶縁体 / 単結晶 / 光学反射率 / 角度分解光電子分光 / 電子構造 / バンド分散 / 走査トンネル顕微鏡 / 分光
【研究成果の概要】
高温超伝導メカニズム解明を目指して、高温超伝導の発現舞台となっている2次元CuO_2面について、フェルミ準位近傍の低エネルギー領域の電子構造およびダイナミックスに関する知見を得るための実験を行ってきた。本研究の特色は、(1)精密化学組成制御した一連の高温超伝導体単結晶試料の作製、(2)光学スペクトル、走査トンネル顕微鏡/分光(STM/STS)、そして角度分解光電子分光(ARPES)という種々の分光実験手法を組合せた相補的な実験データの収集である。
対象とした高温超伝導体はCa_<2-x>Na_xCuO_2Cl_2[CNCOC]とLa_<2-x>Sr_xCuO_4[LSCO]である。これらの物質は、単純な結晶構造を持ち、反強磁性絶縁体から超伝導体までの組成(キャリアドープ量)を合成可能なことが利点であることから、超伝導メカニズムと密接に関連しているドープに伴う電子構造の発達過程を明らかにするのに理想的な系と考えた。CNCCOについては、高圧下での特殊な単結晶育成技術を確立することに成功し、初めて単結晶を用いた実験を可能とした。CNCOCの組成xを系統的に変化させた単結晶試料における実験より、キャリアのドープにより、分散関係をほとんど変化させることなく、反強磁性絶縁体である母物質(x=0)のバンドがフェルミ準位へとシフトして金属化(超伝導を発現)している様子を観測した。このような「Rigid Band Shift」的な描像は、母物質のバンドギャップ間にドープに伴って新たな状態が形成されるという、典型的な高温超伝導物質といわれるLSCOにおける観測から、今まで普遍的と考えられていた電子構造の発達過程と大きく異なっている。このように、反強磁性絶縁体から超伝導体に至る道筋は一つではないことを示すことができたことが最大の成果であると考えている。
【研究代表者】
【研究種目】若手研究(B)
【研究期間】2001 - 2002
【配分額】2,200千円 (直接経費: 2,200千円)