フラクタル上の解析学の展開
【研究分野】数学一般(含確率論・統計数学)
【研究キーワード】
フラクタル / 拡散過程 / 確率過程 / マルチフラクタル / ハウスドルフ次元 / 熱核 / 極限定理 / ベソフ空間 / 固有値分布 / ランダムウォーク
【研究成果の概要】
本研究を通じて、フラクタル上の解析学について以下の成果を得ることができた。
1.フラクタル上の自己共役作用素のスペクトル
自己相似測度をベースとする拡散過程において、測度の自己相似性と拡散過程のスケールがマッチしない際の熱核の短時間漸近挙動を研究した。この場合の漸近挙動は初期点に大きく依存してマルチフラクタルが現れることが分かり、その(ユークリッド距離等に関する)ハウスドルフ次元を計算した。この結果は雑誌に掲載予定である。さらに、フラクタル上に擬距離の族を定め、ある特別な擬距離については上述した次元が単純な形で表現できることを示した。この結果は現在論文に纏めている。
2.ランダムフラクタル上の確率過程の解析
(1)Homogeneous random Sierpinski carpet上の拡散過程とその熱核の評価に関する研究をまとめ、雑誌に掲載された。
(2)空間的な対称性のないrandom recursive Sierpinski gasket上の拡散過程の熱核の短時間漸近挙動を調べ、この挙動に重複対数分の振動が現われることを証明した。この結果は雑誌に掲載された。
3.フラクタル上の確率解析
(1)ユークリッド空間内にフラクタルなどの複雑な系が埋め込まれたモデルにおける熱伝導問題を扱い、実解析で用いられるベソフ空間の理論を援用することにより、内部では系特有の拡散、外部ではユークリッド空間の拡散に従うような拡散過程を解析的に構成した。この結果は雑誌に掲載され、現在は拡散過程の短時間挙動の大偏差原理を研究中である。
(2)T.Lyons氏らによる「ラフパスを持つ確率過程上の確率解析の研究」の発展については、新たな成果を得られなかった。離散近似を手がかりに、彼らの与えた確率微分方程式の性質を詳しく探ることは今後の大きなテーマの一つである。
【研究代表者】