海水中の硫化ジメチル生成、大気への放出、洋上硫酸エアロゾル形成に至る過程の解明
【研究分野】地球宇宙化学
【研究キーワード】
硫化ジメチル / 揮発性有機化合物 / 硫酸塩粒子 / 海洋生物起源気体 / 植物プランクトン / 海洋大気 / エアロゾル / 渦相関法 / 珪藻 / MSA / DMS
【研究成果の概要】
軽元素測定に特化した蛍光X線分析装置を用いることで、簡便で迅速に海水中懸濁粒子の化学組成を計測するシステムを確立した。また、フッ素との蛍光反応を利用し、大気中のDMS濃度を10Hz程度の時間分解能で測定できる船上搭載型装置の開発に成功した。
夏季における北太平洋亜寒帯海域での鉄散布実験を行った白鳳丸航海、春季の生物生産の高い三陸沖での淡青丸航海、夏季に北太平洋亜寒帯海域の東西変化を調べる「みらい」航海において、海水中と大気中の生物起源物質の同時測定を行った。その結果、人工的に植物プランクトンのブルームを起こした鉄散布海域では、海水中のブロモメタン濃度とその大気へのフラックスの増加が見られた。また、プリムネシオ藻と海水中のブロモメタン濃度との間に正の相関を見いだした。三陸沖での自然ブルームが起こっている時期に、海水中のジヨードメタンやクロロヨードメタンが高濃度であり、大気中濃度も高く,海洋の生物活動が大気化学組成に影響していることを実測した。植物プランクトン起源の硫化ジメチル(DMS)については、北緯47度線上において、経度180度〜西経140度にかけて海水中濃度が顕著に増加し、海洋の生物生産、特にDMSPの生産が高い種の増加を反映していた。同時に観測した懸濁物粒子化学組成も、円石藻起源のCa濃度の増加を示し、海水中のDMS濃度上昇、そして、大気中のDMS濃度上昇にも対応していた。
以上、海水中での海洋生物種に対応した生成気体物質が同定され、その生成過程が明らかになった。また大気へのこれらの気体放出量を見積もる上で、海域の生物組成を反映した懸濁粒子化学組成測定手法や大気中へのフラックス直接計測手法が確立され、今後の大気海洋間の物質循環研究の発展に大きく貢献するものである。
【研究代表者】