功利主義の多元的挑戦:経済・政治・法律・倫理から
【研究分野】広領域
【研究キーワード】
シンガー / 生命倫理 / 功利主義 / 開発 / ベンサム / ロールズ / 規範理論 / 環境 / モラル / 最大多数の最大幸福 / 環境倫理 / J.S.ミル / P.シンガー
【研究成果の概要】
平成13年度は3年計画の最終年として、共同研究を整理し、成果発表にどのように結実させていくかを念頭において、英・米・伊3カ国5名の招聘研究者や若手研究協力者を含む4回(3年間計12回)の研究集会を開催するとともにメールによる恒常的な意見交換を行った。
これらにより本年度に得られた総括的な知見は、第一に、経済学から法学、政治学、倫理学といった「広領域」からの研究であることに示されるように、現代社会の直面する諸問題を原理的に考察し、それらを解決するための具体的な提案を行おうとしたときには、そうした試みは賛否を問わず何らかの意味で必ず「功利主義」(utilitarianism)との対決を経る必要があるということである。第二に、「功利主義」が単なる拝金主義や利益第一主義などの通俗的な価値観を意味するのではなく、現実に存在する生身の人間の感性や情操を基礎としつつ社会全体の最大幸福を企図する、一つの具体的な判断基準・規範理論であることがさまざまな領域や事例による多元的な検討から明らかとなった。第三に、より具体的に、現代における生命倫理や環境倫理、所得分配の平等性にかかわる経済的正義の問題等に、功利主義が規定的な役割を果たしていることが示された。現代社会は基本的には経済的言説によって最も巧妙に統合されうるからである。そして第四に、本研究課題に取り組む中から、ベンサムによって立法の科学の一環として構想された経済学について、ベンサムの思想全体の中でのその位置づけと評価が改めて検討し直される必要性が認識されてきた。これは、19世紀ブリテンの政治・経済・法思想の展開の中で、また、現代の新古典派経済学につながる経済社会認識の系譜の先駆としてベンサムの意義を再検証する作業を意味する。これらは引き続く今後の課題でもある。
【研究代表者】