生命科学分野におけるデータベース保護法制の枠組み
【研究分野】広領域
【研究キーワード】
著作権 / データベース / 科学研究 / 革新 / 知的財産権 / 特許 / 生命科学 / 特許法 / 著作権法 / ゲノム解析 / 医療 / 製薬
【研究成果の概要】
1996年、ヨーロッパにおいてディレクティブ96/9ECが設置された。これは、データベースの作成者・配分者の商業利益を保護する上で、これまで弊害となっていた著作権法の欠陥を補うためのものであり、知的財産権保護の新たな分野を切り開くこととなった。しかし、一方で、大学内の科学者、コンピューター業界関係者の間には、それに対する危機感も広まっている。なぜなら、このような法案が世界規模で採択・施行された場合、大学や企業における研究者は、無許可でデータベース上の情報を使用したと、データベースの所有者から訴えられる可能性があるからである。
このような状況をふまえると、以下のような重要課題が議論されることとなろう。それは、(1)データの特許所有者は、データの使用を制限するために、どの程度まで高額なローヤリティーを要求することが出来るか、(2)日本やアメリカでデータベース保護法が施行される事となった場合、データベースの所有者を保護するために、正しい情報使用の原則を法案上で明確化するべきか、という問題である。
2000年3月に行われた会合において、日本のEビジネス代表者は、コマーシャルデータの著作権を厳しく規制するのは、途上段階にある日本におけるEビジネス業界の発展の弊害となり得ると発言し、出版業界における代表者も、同様の理由から増大傾向にあるデータベース保護に意義を唱えている。日本の結論は、日本におけるデータベースの明確な保護規制は現時点では必要ない、というものである。これは、現在日本においては「オリジナリティー」の基準も低く、「体系的な情報組織」等の保護は十分になされている、という事実に基づき、判断されたものである。
では、冒頭で述べたヨーロッパにおけるディレクティブが世界に与えた実質的な影響は、どのようなものであったのか。一例を挙げると、ノルウェイにおいては、著作権保護関連の法律を制定したが、正しい情報使用に関しては厳しい規制がなされていない。又これまでのところ、ヨーロッパ各国をみても、ディレクティブに試みるような法的判決はなされていない。結果として、ヨーロッパにおけるディレクティブの実質的な効果は、まだ限定されたものであり、その傾向が世界規模に広がる動きはまだ見られない、という事が言えるだろう。
【研究代表者】