ヨーロッパ統合下のフランスにおける移民・外国人問題の人権論的考察
【研究分野】公法学
【研究キーワード】
人権 / 外国人 / 移民 / ヨーロッパ統合 / フランス / 憲法 / 憲法院 / 民主主義
【研究成果の概要】
「ヨーロッパ統合化における移民・外国人問題の人権論的考察」と題する本研究の目的は、(1)新たな統合モデル・統合政策の模索における人権理念の占めている地位についての考察 (2)フランスの現行人権保障法体系における、移民・外国人の保障のありようの考究 (3)人権保障機関としての憲法院の果たしているこの分野での役割についての検討、の三点であった。
さて、現時点において、研究実績の概要を提示すれば、以下の通りである。
まず第一に、新たな統合モデル・統合政策と人権理念の問題についてであるが、この問題を根本的に検討するためには、人権理念が必然的に内包する「普遍主義」の再検討が不可避であることが明らかとなった。フランスでは、1970年代からの「相違への権利」の主張を踏まえたうえで、自国の政治・法・社会的文化としての《普遍主義》への反省が、生まれつつある。従来のフランスにおける《普遍主義》は、「西洋の支配の諸形態を正当化してきた理性と自由への直線的進歩の概念」に回帰しようとする「抽象的普遍主義」ないし「擬似的普遍主義」である。これをのりこえる新しい《普遍主義》のモデルが真剣に追求されはじめている。この問題の検討なくしては、統合の人権的考察を行うことは不可能である。また、この《普遍主義》の再考のフランス的特質を解明する目的で、アングロ・サクソン圏における文化多元主義の諸傾向についても、一定の検討を始めた。
第二に、移民・外国人問題を通じて、現行フランス人権保障法体系を照射するという課題であるが、第一及び第三の課題の研究に時間をとられ、率直に言ってこの点についての研究は、現時点においては進展していない。
第三に、人権保障機関としての憲法院が果たしている役割についての検討であるが、この問題は、結局、憲法院の民主主義的役割をいかに評価するかに関わっている。この点、憲法院の諸活動を弁証するための観念として「持続的民主主義」(ドミニク・ルソー)という観念が提唱されていることが、注目に値する。そこでは、憲法裁判官は、人権内容の最終的決定者として現れてきている。
【研究代表者】
【研究種目】奨励研究(A)
【研究期間】1996
【配分額】900千円 (直接経費: 900千円)