カンボジアおよびタイのクメール建造物の石材並びに石材劣化に関する研究
【研究分野】文化財科学
【研究キーワード】
アンコール遺跡 / クメール遺跡 / 砂岩 / ラテライト / 劣化 / 帯磁率 / 安定同位体 / 硫黄同位体 / ストロンチウム同位体 / 放射性炭素年代 / コラート層群 / プラサート・スープラ / 地中レーダ / 石材劣化 / カンボジア / タイ / コラート高原 / 赤外線カメラ / 含水率計
【研究成果の概要】
本研究では、カンボジア、タイおよびラオスにまたがって広く分布し、9世紀から13世紀にかけて建造されたクメール遺跡の石材および石材劣化に関する研究を行なった。クメール遺跡の建築材料は砂岩、ラテライトおよび煉瓦であるが、本研究では、主として砂岩に焦点を置き、研究を行なった。
カンボジアのクメール遺跡(一般的にはアンコール遺跡と呼ばれる)に関しては、砂岩材およびラテライト材の帯磁率、形、層理面方向等の特徴の時代変化を明らかにすることにより、建造物における建造順序の推定が可能となった。特に、建造年代に関して不明であったプラサート・スープラの建築年代をこれら石材の特徴およびスタッコやラテライト材充填物中の木炭片に対する放射性炭素年代測定からアンコール・ワット期の建造であることを明らかにすることができた。
クメール遺跡における石材劣化の原因のなかで最も重要なのは塩類風化であり、建物内部に見られ硫酸塩およびリン酸塩を伴う塩類風化と、主として堂山型基壇の表面に見られる炭酸カルシウムを伴う塩類風化とが見られる。これら塩類風化における塩類の起源を調べるためにイオウおよびストロンチウムの安定同位体分析を行なった。その結果、前者ではコウモリの排泄物が、後者では岩石および雨水が塩類の供給源であることが明らかとなった。
タイおよびラオスのクメール遺跡に関しては、使用石材の岩石学的記載を行なうとともに遺跡周辺の地質調査を行ない、石材の供給源を明らかにすることができた。カンボジア、タイおよびラオスの石材供給地に関する研究結果から、遺跡に使用されている石材は周辺地質によって支配されていることが明らかになった。
【研究代表者】