複数の電子受容色素を持つタンパク質の電子状態と電子移動反応の研究
【研究分野】物理化学
【研究キーワード】
密度汎関数法 / タンパク質 / 全電子計算 / 大規模計算 / 収束法 / BDS-I / 並列化 / オブジェクト指向による並列化 / 非局所補正法 / タンパク質内電子トンネリング / シトクロムc / オブジェクト指向プログラミング / ROKS法 / シトクロムc_3 / 大次元行列対角化の並列化 / 大次元逆行列計算の並列化
【研究成果の概要】
本研究者らはタンパク質全体の電子状態を量子論的な方法に基づいて計算する手法を構築し、タンパク質の性質や反応を電子レベルで理解することを目的に、大型分子や金属錯体の電子状態計算に有効な密度汎関数法に基づく分子軌道法プログラムを作成・発展させた。計画最終年度では小タンパク質の全電子計算の実行と、タンパク質内電子トンネリング機構を解析するシステムの作成を達成した。本研究を通して得られた主な成果を以下に箇条書きにする。
1.独自に開発した密度汎関数法プログラムのほぼ全計算過程を並列化した。オブジェクト指向を用いることによって、各計算過程の汎用性を保ちつつ、高速化、省メモリ化、アーキテクチャに特化したチューニングを実現した。10台以上のワークステーションクラスタで、80%以上の並列化効率が得られた。
2.次元の大きさ、ペプチド結合に関する周期性などから軌道に線形従属性が顕著に現れる。これらは計算に悪影響を及ぼすため、この線形従属性を取り除く機能を追加した。
3.金属タンパク質の電子状態計算に必要な制限付き開殻軌道密度汎関数法(POKS)を新たに定式化し、これを本プログラムに取り込んだ。チトクロムc_3活性中心のイオン化状態計算に適用した。
4.経路積分を用いた電子トンネリング過程計算法を精密化した。計算精度を超多重積分数の1次依存から2次依存に上げることに成功した。
5.密度汎関数法の交換相関ポテンシャル非局所補正法(BLYP)を高速に計算するアルゴリズムを開発した。
6.Ruを導入したチトクロムcの系でモデルポテンシャルを使用してタンパク質内電子移動経路をシミュレートした結果、3本の電子移動経路が観測された。
7.穏やかに小タンパク質の全電子計算が収束する技術を開発した。
8.43残基のタンパク質BDS-Iの全電子計算に成功した。これは世界初の密度汎関数法によるタンパク質全電子計算である。
【研究代表者】