翻訳の言語態-言語論的視点と文化論的視点から
【研究分野】ヨーロッパ語系文学
【研究キーワード】
翻訳 / 言語態 / 異文化交流 / 間文化 / 文宇文化 / 文字文化 / 翻訳可能性 / 異文化 / 文学 / 翻訳理論 / 翻訳の実践 / 文化交流論 / 英仏独露
【研究成果の概要】
本研究は、平成16、17、18年度にわたって、「翻訳の言語態」研究を遂行した。基本的な立場は、翻訳の本来的性質を究明することを通じて、翻訳に新しい地平を開くことである。第一の課題は、翻訳が「意味されたもの=内容」を伝達することであるという常識を考え直す点である。意味内容の疎通は、翻訳の一部であるが、その総体ではない。翻訳は内容というよりも、むしろ「フォルムに関わる」(ベンヤミン)。この点を、西欧文学や思想の翻訳作品、また日本文学の西欧語への翻訳作品を多角的視点から精査することによって検討した。第二に、翻訳は言語の存在と作用に深く関わることを考察しつつ、翻訳が言葉の特性をよく知ることに基づくこと、それも原文の言語だけでなく、自国語の文法、語彙、構文法などを深く探究することに拠ることを検証した。第三に、上記の議論を踏まえて、翻訳者の任務と課題はどういうものであるかを考察した。翻訳において最も重要なことは、翻訳者がまず原作において、だがそれのみならず自分が書いてゆくテクスト(翻訳作品)においても、言葉を記す仕方(フォルム的側面、シニフィアンの側面)と、記された内容(概念的側面、シニフィエの側面)とが切り離せないかたちで結ばれていることを銘記し、そうした言語活動の特性を精密に理解することである。この観点は、デリダ、ブランショの文学論・言語論において読み取れるものであり、それは、2006年10月に、東京大学駒場において行った国際シンポジウム「翻訳の言語態--モーリス・ブランショ、文学、言語」においても、討議され、確認された。この討議は、2007年秋に『ブランショ特集号』(現代詩手帖別冊特集、思潮社)として刊行予定。また全体の成果は、湯浅による論文「翻訳論を深めるために」、野崎、宮下による論考などを含む研究報告集として公表される。
【研究代表者】