公共圏の重層的多元化と法システムの再編
【研究分野】基礎法学
【研究キーワード】
公共性 / 公共圏 / 法哲学 / 法システム / 公私二元論 / 正義概念 / リベラリズム / 公共的正当化 / 市場 / 多文化主義 / 文化 / 生命倫理 / 情報化 / 親密圏 / 責任 / 多元性 / 市民社会 / 正義
【研究成果の概要】
本共同研究は(1)公共圏の重層的多元化が孕む新たな秩序形成の課題とその困難性を解明する、(2)この課題に対処するために、多様な公共圏の自律性を尊重しつつも、それらを相補的共存に向けて制御する高階の公共性原理を解明する、(3)かかる公共性原理に依拠した法システムの基本構造を、法哲学の基本概念の再定位を通じて解明するという三つの課題の遂行を目的とし、各課題につき次の成果を得た。(1)家族内における性差別や暴力、市場と生活者的公共性、保険医療改革、多文化主義と自由民主主義体制の緊張、ディジタル・エンパワメントと自由の両義的関係など現代社会・現代世界の現実的問題状況に即して、公共圏の重層的多元化がもたらしている従来の公私二元論や公共性形成メカニズムの揺らぎ・破綻と再編の必要性が明らかにされた。(2)伝統的な公共性概念の諸範型を領域的公共性論、主体的公共性論、プロセス的(手続的)公共性論として整理した上で、これらが(1)に関して摘出された諸問題に的確に応答しえていないことが示され、公共圏の重層的多元化が要請する高階の公共性原理として適切なのは、普遍化可能性・反転可能性の要請を核にする公共的正当化要請としての正義理念に立脚する異質な他者の視点に開かれた公共性概念に求められるべきことが明らかにされた。(3)成果(2)として提示された公共性理解の視点から、リベラリズム、共和主義、共同体論、「法と経済学」など、法哲学の従来の支配的諸潮流がいずれも基本概念・基本原理の再編を迫られていることが明らかにされた。そして、私的領域の差別・抑圧を脱政治化して隠蔽するイデオロギーとしての公私二元論ではなく、他者志向的・正義志向的公共性原理に立脚して再編されたリベラルな人権や立憲民主主義の原理を基底におきつつ、市場の公共性担保、公民的自治の開放的な再活性化、文化的多様性の公正な包容等を図る必要が確認された。
【研究代表者】