脳虚血再灌流時における脳血管破錠のメカニズムの解明
【研究分野】神経内科学
【研究キーワード】
脳虚血 / 虚血性細胞傷害 / 転写因子 / 脳保護 / 情報伝達 / CREB / オリゴデンドロサイト / 白質 / サイクリックAMP / アポトーシス / 虚血性細胞障害 / サイトカイン / IL-6
【研究成果の概要】
平成11年度から13年度にわたって、ラット中大脳動脈閉塞モデルを用い脳虚血再灌流時における、大脳白質病変と転写因子cyclic AMP response element binding Protein (CREB)のリン酸化(活性化)の関係を、オリゴデンドロサイトの特異的マーカーを用い、TUNEL染色やBcl-2蛋白発現と共に、免疫組織学的に調べた。すなわち、白質が皮質よりも大きな容積をしめるヒト脳では大脳白質が脳梗塞において主な病変部位であることが大変多く、今後の血栓溶解療法や血流再開療法の施行に伴い、白質保護が益々重要な課題になってきているからである。CREBは種々の神経栄養因子の作用発現やBcl-2蛋白などの抗アポトーシス因子発現に関与し、神経細胞の発生、分化や再生、シナプス可塑性の維持など細胞保護的に機能することが注目されている。また、CREBはthioredoxin発現を調節することで酸化ストレス抑制にも重要な役割を果たしていることが明らかとなっている。実験の結果、代表的な大脳白質部位である脳梁の虚血周辺部では、再灌流24-48時間の時点で、オリゴデンドロサイト細胞核におけるCREBリン酸化の亢進の持続とともに、同細胞の細胞質でBcl-2発現は明らかに増大しかつTUNEL染色は陰性であり、Cresyl violet染色上、細胞の形態は正常に保たれていた。また、髄鞘染色上、髄鞘の密度や構造は正常に保たれていた。また、同部位のCREBリン酸化の明らかなオリゴデンドロサイトはニトロチロシン染色陰性であり、一酸化窒素やペロキシナイトライトを介した酸化ストレスを免れていた。一方、虚血中心部の脳梁では再潅流24-48時間の時点で、リン酸化CREBは全く検出されず、かつBcl-2も陰性化し、TUNEL染色は強陽性、ニトロチロシン染色陽性であり、オリゴデンドロサイトの傷害は明らかであった。また、髄鞘は明らかに非薄化していた。以上より、脳虚血再灌流時において、CREBリン酸化の持続が大脳白質のオリゴデンドロサイトや髄鞘に保護的に作用していることが明らかとなった。また、電位依存性Na^+/Ca^<2+>チャンネル阻害薬(NS-7)によって、本虚血モデルにおけるこれら細胞内情報伝達系障害が抑制され、梗塞巣が縮小化することが明らかとなり、今後の新しい治療への展望が開けてきた。
【研究代表者】