医師の触診教育・手術手技訓練を目的とした心臓手術シミュレーション開発
【研究分野】医用生体工学・生体材料学
【研究キーワード】
手術シミュレーション / 仮想現実技術 / haptics / 有限要素法 / 触診シミュレーション
【研究成果の概要】
本研究においては心臓外科手術に関連する各種の手技を対象に、仮想現実技術を用いた触感を伴うシミュレーション手法を開発した。これらは開心術、内視鏡下手術のいずれか、あるいはいずれでも用いられる手技を対象としている。現時点までに開発されたものは、術野へのアプローチ、触診、組織間の干渉のシミュレータと病変部位の力学モデルの作成である。
術野へのアプローチとして、まず切開のシミュレーションを行った。ここでは、体表組織の力学モデルとしてバネ質点モデルを適用して、皮膚張力の質感と切開時の動作を表現した(業績リスト5,9)。さらに、開創器での開創シミュレーション(業績リスト12)を行っている。
触診シミュレーションの対象として、開胸手術中に行う大動脈血管触診を取り上げた。MRIで測定した3次元像を基に、血管形状を形成する4面体群からなる有限要素モデルに血管内圧の実測値を外力として加えることで、拍動する大動脈血管を力学モデルを再現した。
触診動作は2指による「つまみ」動作とし、有限要素モデルにBro-Nielsenらのcondensation法に基づく前処理を施すことによって、実時間でリアリスティックな弾性反応を表現できるようにした。このモデルでは各々の4面体要素が持つ弾性特性を変化させることで、組織の硬化病変を表すことができる。
シミュレータの評価実験として3名の心臓外科医による主観評価実験を行い、種々の硬化病変モデルや不整脈モデルに対して良好な再現性が得られていることがわかった。
次に医学生を対象に臨床実習の一部にシミュレータによる触診手技の実習を導入し、その教育効果を評価した。この評価実験では、正常大動脈と部分的な硬化病変を持つ大動脈等をモデリングし、正常大動脈の硬さを答えさせるものである。学生を、献体での蝕感の体験のみの群、口頭での教示を加えた群、本システムによる教示を加えた群の3群に分け、種々の硬さのモデルに対して、正常大動脈の硬さが指示できるかを調べた。その結果、シミュレーションを受けた群の認識率が他の2群に較べ著しく良好であり、その教育効果と触感に対する訓練の有効性が証明された。
【研究代表者】