海生無脊椎動物遺存種の進化学的研究
【研究分野】層位・古生物学
【研究キーワード】
無脊椎動物 / 遺存種 / 進化 / 分子生物学 / 発生学 / 解剖学 / 分類学 / 古生物学
【研究成果の概要】
1.生態学・分類学的研究
加瀬・速水・花井・田吹・森は南太平洋全域の海底洞窟において原始的体制を持つ無脊椎動物群の存在を認めるとともに、それらの分類学的概要、生態分布、生活史などに関する調査研究を行った。予察的ながら、多くの遺存種は餌の少ない海底洞窟生活に適応した特殊な生態・生活史を持つ類が多いことが判明した。
2.発生学的研究
棚部は鳥羽水族館の内山公夫氏の協力を得て、原始的頭足類オウムガイ類の胚殻構造の形成過程を調べた結果、発生初期に有機質でできた楕円形の殻を形成することが判明した。その殻は軟体動物貝殻亜門の基幹分類群とされる単板類の殻に酷似することから、頭足類は単板類型の祖先から進化した可能性が示唆された。
3.分子系統学的研究
1)遠藤および上島は「生きている化石」を多く含む触手冠動物の高次の系統上の位置を明らかにする目的で、ミトコンドリアDNA(mtDNA)の遺伝子配列の比較および,ペプチド鎖伸長因子(EF-1a)のアミノ酸配列の比較を行った。その結果触手冠動物は後口動物より前口動物に近縁であることがほぼ確かとなった。
2)千葉は古生代から現在までほとんど形を変えずに存続している「生きた化石」カブトエビ属全4種中3種のミトコンドリアDNA、16SrRNAとCOI遺伝子の塩基配列(部分配列)を決定し、地域集団や種間の系統関係を推定した。その結果、形態の極端な安定性と遺伝的多様性は独立であり、この部類は遺伝的、あるいは集団としては他の生物と同様の分化を遂げていることが示唆された。
4.理論的研究
環境の不安定性が多型をもたらすことが理論的に指摘されているが、千葉は量的遺伝学にもとづいて長期の表現型の進化パターンを表現する数理モデルを構成し、生きている化石と呼ばれるような長期の形態の安定が、長期にわたり極端に安定な環境と、長期にわたり極端に不安定な環境のいずれかで出現することを示した。このモデルにより、体サイズの大型化(Copeの法則)、大量絶滅直後の小型化、加速度的な進化などのパターンを記述することができた。
【研究代表者】