新たな脂肪細胞機能制御分子としての脂肪細胞内eNOSの役割の解明
【研究分野】内科学一般(含心身医学)
【研究キーワード】
eNOS / 脂肪細胞 / 脂肪酸 / インスリン抵抗性 / メタボリック・シンドローム
【研究成果の概要】
本研究の目的は、脂肪細胞内に発現するeNOSの発現調機構ならびに脂肪細胞機能制御における役割を、分子、細胞、組織、個体レベルにて明らかにすることである。
培養脂肪細胞においてeNOSがその分化とともに発現することを見出した。また、eNOSを阻害することで脂肪細胞における脂肪分解が亢進することから、脂肪細胞内のeNOSが脂肪分解に対し抑制的に作用することを明らかにした。マウスの脂肪組織においてもeNOSが発現していること、高脂肪食負荷を加えた肥満マウスの脂肪組織においてeNOSの発現はむしろ低下すること、また高脂肪食負荷による肥満マウスに対し、通常食に戻したところ、肥満、代謝異常の改善とともに、脂肪組織eNOSの発現が回復することを見いだした。脂肪組織内eNOS発現レベルと肝臓内トリグリセリドレベルが負の相関を示すことを示した。eNOSノックアウトマウスに、高脂肪食を負荷したところ、wild-typeマウスにくらべて、体重と総脂肪量の増加がみとめられ、血液中のインスリン濃度もより増加しており、個体レベルのインスリン抵抗性が悪化していることが示唆された。また、eNOSノックアウトマウスにおいて肝重量の増加、肝臓内トリグリセリド濃度の増加、肝臓でのインスリンに対する反応性の低下が認められた。また、組織学的検討により高度の脂肪沈着、線維化、炎症細胞の浸潤も認められ、NASH様の組織をていしていた。eNOSの発現はwild-typeマウスの肝臓においてもともと認められず、血中遊離脂肪酸の基礎濃度およびイソプロテレノール負荷による血中遊離脂肪酸の上昇の程度は、eNOSノックアウトマウスにおいて有意に高かったことから、eNOSノックアウトマウスでは、脂肪組織における脂肪分解能が亢進しこのことがNASHの形成に寄与しているものと考えられた。さらに、培養細胞を用いた研究において、脂肪細胞内eNOSの発現が、PPAR-gamma阻害薬により、強く増強することを見出した。PPAR-gamma阻害薬を高脂肪食負荷マウスに投与したところ脂肪組織において、eNOSの発現の増強が確認されるとともに肝における脂肪蓄積の程度がPPAR-gamma阻害薬により軽減した。
以上、脂肪内eNOSは脂肪分解能を負に制御しており、eNOSノックアウトマウスは、脂肪分解能が亢進し遊離脂肪酸の分泌が上昇しており、このことがNASHの形成に寄与しているものと考えられた。これらの結果は、代謝性老年疾患の新たな治療戦略に対する実験的エビデンスになりうると考えられる。
【研究代表者】
【研究分担者】 |
飯島 勝矢 | 東京大学 | 高齢社会総合研究機構 | 准教授 | (Kakenデータベース) |
大田 秀隆 | 東京大学 | 医学部附属病院 | 助教 | (Kakenデータベース) |
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【研究種目】基盤研究(C)
【研究期間】2009 - 2011
【配分額】4,420千円 (直接経費: 3,400千円、間接経費: 1,020千円)