転写因子HIF2Aによる軟骨細胞の発生・分化の制御機構の解明
【研究分野】整形外科学
【研究キーワード】
骨・軟骨代謝学 / 再生医学 / 細胞・組織 / 発生・分化 / 軟骨細胞 / 軟骨内骨化 / 変形性関節症 / 転写因子 / HIF2A
【研究成果の概要】
変形性関節症(OA)の発症には軟骨細胞の肥大分化以降の軟骨内骨化過程が関与する。OA治療標的分子の同定を目指して、まず肥大分化マーカーCOL10A1のpromoterを用いて上流分子のスクリーニングを行ったところ、hypoxia-inducible factor 2α(HIF2A)が最も強い転写活性を示した。HIF2Aへテロ欠損(+/-)マウスは軟骨細胞の肥大分化と骨化の障害による成長遅延を呈した。HIF2Aはマウス実験モデルとヒト手術摘出膝関節軟骨においてOAの進行に伴って発現が亢進しており、+/-マウスでは関節軟骨破壊が抑制された。また培養軟骨細胞にHIF2Aを過剰発現および発現抑制したところ、COL10A1,MMP3,9,13,VEGF,IHH,PTH1R,RUNX2などの軟骨内骨化マーカーの発現が、それぞれ増加および減少した。これらの発現は+/-マウスの軟骨では低下しており、luciferase assay、EMSA、ChIPによりHIF2Aがこれらの分子のpromoterの各応答配列に結合して直接転写を誘導することが示された。続いてHIF2A promoterを用いたスクリーニングでは、NF-κB family分子RELAがNF-κB motifを介して強力にHIF2Aを転写誘導した。RELAはOA関節軟骨でHIF2Aと共に発現が上昇し、培養軟骨細胞でIL-1、TNF-αがHIF2Aを誘導することから、NF-κBがHIF2Aの上流シグナルであることが示された。さらにROADスタディ住民コホートのゲノム関連解析(397 OA vs.437対照)においてHIF2A遺伝子5'UTRのSNP(+18C/T)が有意な疾患感受性(p=0.013;OR=1.44)を示し、培養軟骨細胞では疾患allele(+18C)promoterが対照(+18T)より有意に高い転写活性を示した。この活性の差は上記のNF-κB motif内の変異導入によって見られなくなったため、本SNPはNF-κBによるHIF2A誘導を介してOAに関与していることが示された。以上より、マウスのみならずヒトでもHIF2A/NF-κBシグナルは複数の軟骨内骨化関連分子を転写誘導することでOAを制御しており、強力な治療標的の候補であることが明らかとなった。
【研究代表者】
【研究種目】若手研究(A)
【研究期間】2008 - 2010
【配分額】22,750千円 (直接経費: 17,500千円、間接経費: 5,250千円)