間葉系前駆細胞の老化を基軸とした炎症性筋疾患の新規病態進行機序の解明
【研究キーワード】
細胞老化 / ラット / 筋ジストロフィー / 免疫回避 / 炎症 / 筋再生 / 筋前駆細胞 / 間葉系前駆細胞 / 筋衛星細胞
【研究成果の概要】
炎症性筋疾患であるヒトデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)の病態を反映するDMDラット骨格筋では細胞老化因子p16の発現を伴う間葉系前駆細胞の早期細胞老化が生じており、これが筋再生を抑制する可能性が示されている。そこで本年度はp16欠損ラットとDMDラットと交配させることでp16依存性の細胞老化を阻止した場合にDMDラットの表現型がどのように変化するかについて詳細に調べた。その結果、p16欠損により、DMDラットの体重増加がみられ筋力の回復も観察された。また病態末期に観察される線維化や脂肪化の程度は減少し、同時に再生筋線維数も増加していた。再生筋線維数の増加には筋前駆細胞の増加が伴っていた。興味深いことにDMDラット骨格筋で生じているSASP因子の発現増加のうち、TGF-beta1やCTGF、MMP2についてはp16欠損により大きく減少した。以上の結果は、細胞老化がDMDラットの病態形成に深く関与しており、その阻害が病態を軽減させるという当初の予想に合致したものであった。そこで別のアプローチとして、老化細胞除去薬であるABT263をDMDラットに2週間経口投与した。その結果、体重減少や筋力低下が阻止された。この結果も、老化細胞の存在がDMDラットの病態悪化に深く関与することを支持するものであった。DMDラット骨格筋にみられる老化細胞の出現という減少がヒトDMD骨格筋でも同様であるかについて検証した。その結果、ヒト骨格筋サンプル(健常者10名、DMD患者35名)において細胞老化因子p14、p16、p21の発現はDMD患者でのみ観察された。このことから、ヒトDMDにおいて細胞老化は有効な治療標的となる可能性が強く示された。
【研究代表者】
【研究種目】基盤研究(B)
【研究期間】2020-04-01 - 2023-03-31
【配分額】17,940千円 (直接経費: 13,800千円、間接経費: 4,140千円)