トランスジェニックマウスによるUCP3の糖尿病・肥満における病態生理的意義の解明
【研究分野】代謝学
【研究キーワード】
肥満 / 糖尿病 / UCP / エネルギー代謝 / エネルギー消費 / 脱共役蛋白質3 / 骨格筋
【研究成果の概要】
エネルギー代謝調節系は摂食調節系とエネルギー消費調節系から成り、そのバランスの異常は糖尿病や肥満につながる.骨格筋は糖脂質代謝の主要な臓器の一つであり、また全身のエネルギー消費の約4割に相当するが、その分子機構の研究が遅れている。我々は骨格筋に高濃度な脱共役蛋白質3(UCP3)を同定している。本研究では骨格筋UCP3遺伝子発現調節機構と、UCP3の骨格筋過剰発現トランスジェニックマウス(Tgマウス)によりUCP3の機能的意義を、検討した。
in vivoで脂肪酸により骨格筋のUCP3遺伝子発現が増加するが、脂肪酸がPPARのアゴニストであるので、PPARの関与が示唆される。in vitroの系の骨格筋L6細胞で、PPARδアゴニストのL-165041によりUCP3遺伝子発現が増加し、PPARαアゴニストおよびPPARγアゴニストで増加しないこと、L6細胞の主なPPARがPPARδであることを明らかにし、その遺伝子発現調節機構におけるPPARδの関与を明らかにした。in vivoの骨格筋でもPPARの中でPPARδが主であり、同様の機序の関与が示唆された。
muscle creatinine kinaseプロモーターで骨格筋特異的UCP3過剰発現Tgマウスを作製した。UCP3発現は最高発現の系統で、mRNAで18倍、蛋白で15倍であった。通常食でTgマウスは対照マウスに比校して特に有意な形質を示さなかった。高脂肪食ではTgマウスの体重は対照マウスより約15%に有意に減少し、高脂肪食負荷の4週間の体重増加はTgマウスで約50%低下した。副精巣周囲白色脂肪組織重量は約20%低下したが、他の組織の重量で有意差が認められず、体重低下が主に白色脂肪組織重量の低下によることが示唆された。摂食量と体温は有意差を示さなかったが、酸素消費量は約25%の有意な増加を示しており、体重の有意な低下はエネルギー消費の有意な増加によると考えられる。Tgマウスの耐糖能は対照マウスに比校して有意な改善を示した。血中の糖、脂質の濃度や組織学的検討で特に有意差を認めなかった。以上より、生理的刺激によるUCP3の発現誘導の範囲の誘導により、肥満の条件でエネルギー消費増加、体重減少の作用が認められた。我々のTgマウスと同程度の発現誘導は薬剤でも可能と考えられるので、薬剤によりUCP3の活性を増強することの、肥満・糖尿病治療への応用の可能性が示唆された。
【研究代表者】