甲状腺ホルモンシグナリングを用いた心不全治療の試み-胎児型遺伝子発現の転換
【研究分野】循環器内科学
【研究キーワード】
甲状腺ホルモン / 心筋細胞 / 心肥大 / p38 MAPキナーゼ / 甲状腺ホルモンレセプター / 胎児型遺伝子発現 / アデノウィルス / ラット / 心不全 / 遺伝子発現
【研究成果の概要】
主として、培養心筋細胞におけるアデノウィルスを用いたTRの過剰発現系において検討した。TRβ_1の過剰発現により心筋細胞の肥大は抑制されたが、p38MAPKのリン酸化抑制を伴っており、このp38のリン酸化抑制はTRβ_1とp38αの相互作用によることも観察された。しかし、TRβ_1の過剰発現はT_3に特徴的な成体型遺伝子発現すなわちαMHCやSERCAの増加、βMHCの減少を伴った。TRβ_1の過剰発現により、内在性のTRβ_1の発現も誘導された。さらに、TRβに特異的なagonistであるGC-1の作用を培養心筋細胞において検討した。GC-1はT_3に比べて肥大の誘導は弱かったが、しかしほぼ同程度に成体型遺伝子発現すなわちαMHCやSERCAの増加、βMHCの減少を誘導した。GC-1については共同研究者のJohn Baxterの研究室から最近、成体においてT_3と比べて頻脈の誘導が弱いが、肝臓においてはcholesterol 7alpha-hydroxylaseがTRβ_1特異的に調節されており脂質代謝にはT_3と同程度の作用があることが報告されている。この事実は心不全治療において頻脈の発生を比較的少なくして成体型遺伝子発現を誘導できる可能性をTRβ特異的agonistが有するものと考えられる。一方、TRα_1の過剰発現により、著明な心筋細胞肥大が誘導され、胎児型遺伝子発現を伴った。この病的肥大類似の作用はp38経路の活性化によるものと考えられ、TRα_1とp38の上流に存在するTAK1との相互作用に起因すると考えられた。このように甲状腺ホルモンシグナリングは心筋細胞においてdual pathwayを有し、α_1による肥大とβ_1による成体型遺伝子発現亢進とがバランスした状態を誘導すると考えられる。
【研究代表者】