iPS技術を利用した心筋症の遺伝子型-表現型相関を決定する分子機構の解明
【研究キーワード】
心筋症 / 左室心筋緻密化障害 / 心筋発生 / iPS細胞 / 心臓前駆細胞 / ゲノム編集
【研究成果の概要】
今回我々は、サルコメア構造タンパクをコードするMYH7遺伝子に、表現型の異なる肥大型、拡張型および左室心筋緻密化障害の各心筋症を引き起こす3種類の異なる変異を導入したiPS細胞を作製し、表現型の差異が生じるメカニズムの解明を目指した。研究代表者はこれまでに、疾患発症メカニズムの解明を目指した先行研究で、胎生期の心筋緻密層における、胎児心筋細胞の増殖抑制が、正常な緻密層形成を阻害し、心筋緻密化障害が形成されるという病態の一端を解明した。興味深いことに、左室心筋緻密化障害特異的なMYH7変異を導入したiPS心筋細胞は、サルコメア構造の形成が重篤に障害され、さらに分化誘導開始後2週間の心筋細胞を用いた網羅的遺伝子発現解析で、左室心筋緻密化障害および拡張型心筋症の疾患特異的変異を有する心筋細胞では、正常コントロール心筋細胞に比して細胞周期の異常が示唆される結果が得られた。しかし、その後の詳細な分析で、これらの心筋症特異的iPS心筋細胞では、細胞増殖能がむしろ亢進する現象が確認され、この結果は研究代表者の唱える、胎児心筋細胞の増殖障害説と相反する結果となった。TBX20変異を原因とする病態と異なり、サルコメア構造タンパクの特異的な領域に対する変異が、細胞周期を亢進させるという報告はこれまでになく、サルコメア構造の構築障害が細胞成熟性に負に影響し、未熟心筋に起因する緻密層構築障害および機能障害につながる可能性が考えられた。立体的な心筋層構築をiPS細胞を用いて評価するため、さらに我々は心筋オルガノイド作製を試み、その形成に成功した。今後さらにiPS心筋細胞をsingle cell レベルおよび3次元的な立体レベルで詳細な形態形成および遺伝子制御機構を解析することにより、胎生期の発生に関する細胞制御を司る、サルコメア構造タンパクの新たな役割を明らかにしていく糸口となる可能性が期待される。
【研究代表者】
【研究分担者】 |
芝田 晋介 | 慶應義塾大学 | 医学部(信濃町) | 訪問教授 | (Kakenデータベース) |
湯浅 慎介 | 慶應義塾大学 | 医学部(信濃町) | 講師 | (Kakenデータベース) |
|
【研究種目】基盤研究(C)
【研究期間】2020-04-01 - 2023-03-31
【配分額】4,420千円 (直接経費: 3,400千円、間接経費: 1,020千円)