ラット炎症性大腸発癌モデルのβカテニン遺伝子変異とその病理組織学的形態への影響
【研究分野】実験病理学
【研究キーワード】
化学大腸発癌 / β-カテニン / 前癌病変 / ラット / 遺伝子変異 / βカテニン / 大腸発癌
【研究成果の概要】
本研究ではアゾキシメタンで誘発したラット大腸発癌モデルにおいて、大腸粘膜に生ずる変異陰窩巣(aberrant crypt foci;ACF)を指標とする5〜20週間の短期および中期実験を行い、従来型のACFを検出するとともに、新規にβカテニン遺伝子変異を有する病巣について詳細な検討を行った。すなわち、ラット大腸粘膜はホルマリン固定後、メチレンブルー染色し、ACF総形成数を測定するとともに、パラフイン包埋標本を作製した。ACF部はマーキングして、粘膜に対して、水平方向からの薄切標本作製(H&E染色)を行い、βカテニンに対する免疫染色と細胞・形態学的異型度の検索を行った。また、同一材料より、レーザーによるLCM SYSTEM(オリンパス)を使用し、マーキングされたACF部および非ACF性の異型病変部をくり抜き、genomic DNA抽出を行い、βカテニン遺伝子のDNA配列について検討した。
βカテニンの免疫染色では今まで検討されていた従来型のACFではβカテニンの核や細胞質への蓄積を示す陽性ははっきりしないものの、新規に見つけられた組織学的な異形成を有する病巣では陽性を示しており、βカテニン遺伝子変異を反映するものと考えられた。実際、ACF部では検討した20病変中3病変(15%)にβカテニン遺伝子エクソン3のコドン32と34に変異を見るに過ぎなかったが、非ACF性の異型病変では18病変の検索中13病変(72%)に同様にエクソン3のコドン32-41にかけて、点突然変異を伴っていた。加えて、核の極性および腺構造等を指標とする形態学的な異型度を検討した結果、形態的異型度は週令と共にこの新規βカテニン蓄積巣は異型度を増加するのに対し、従来のACFに異型度の増加は見られなかった。
以上から、本研究で発見された新規のラット大腸粘膜異型病巣が、化学発癌における腫瘍性病変の芽であることが推定された。
【研究代表者】