熱核の漸近性とラプラシアンの主固有値問題
【研究分野】基礎解析学
【研究キーワード】
熱核 / マルコフ過程 / 大偏差原理 / スペクトル / 主固有関数 / ロバチェフスキー空間 / 樹木 / ブラウン運動 / ディリクレ形式 / マルコフ連鎖 / 固定端過程 / 調和変換 / 主固有値 / 被覆空間 / 離散群 / 対称空間
【研究成果の概要】
推移確率密度関数が時間に関して指数関数オーダーで減衰するマルコフ過程に対してDonsker-Varadhan型の大偏差原理を系統的に調べることが目標であった。この種のマルコフ過程は非常に強い非再帰性を持ち、そのため通常の形の大偏差原理は成立しない。ここではこのマルコフ過程の固定端運動の経験分布の大偏差原理を考察した。我々の研究において本質的に重要な役割を果すのは、マルコフ過程の生成作用素のスペクトルの下端とそれに附随する(一般化された)正値固有関数(ここでは主固有関数と呼ぶ)である。基本的アイデアは、マルコフ過程をこの主固有関数で調和変換(Doobのh-変換の一般化とも言える)し、得られる新しいマルコフ過程に附随するレート関数を導入すると、それによって固定端運動に対する大偏差原理を証明することができる。具体的には、(i)多次元正方格子上の可逆な周期的マルコフ連鎖(離散時間および連続時間パラメータ)について、正方格子の離散トーラスに対する被覆性に基づいた議論により、大偏差原理を証明した。(ii)(i)におけるマルコフ連鎖について、スペクトルの下端が正になるための必要十分条件を、Ellisの大偏差の理論を利用して証明した。(iii)非ユークリッド的な状態空間の場合:(A)2次元ロバチェフスキー空間のブラウン運動、(B)樹木上のランダムウオーク、に対して大偏差原理を示した。(iii)の場合は、(i)にくらべるといくぶん弱い主張であるが、ファイマン-カッツ型の汎関数の平均に対する極限定理は、レート関数とL^2-スペクトルとの関係に着目することにより証明できた。
【研究代表者】