長距離ジーンフローが卓越する針葉樹でなぜ高標高エコタイプが存在しうるのか?
【研究キーワード】
標高勾配 / 分布上限 / 遺伝子発現 / ジーンフロー / 適応的遺伝子 / 適応的遺伝変異 / 種分布モデル / 中心辺境仮説 / 遺伝子流動 / 標高 / 繁殖個体密度 / トドマツ / UAV / 人工交配 / エコタイプ / 中心辺縁仮説
【研究成果の概要】
・十勝岳山麓の標高600m、900m、1200mの3標高域において、ドローンで撮影した樹冠画像を用いてトドマツの個体位置を特定し、それぞれから繁殖している可能性のある個体(成木)をサンプリングした。2011年豊作年に採種した個体のUAV樹冠図と個体サイズの関係から、繁殖を開始する個体の樹冠面積が10平方メートル程度であることを明らかにした。各標高域でサンプリングを行う際に繁殖の有無を調査し、標高によって繁殖開始サイズが異なるかどうかを検討した結果、1200mの高標高域では、樹冠が小さい個体でも繁殖していることが示された。
・採取した成木集団のサンプルと苗畑で育成中の各標高域に由来する実生集団のサンプルからDNAを抽出し、8座のジェノミックSSRマーカーでタイピングし、成木集団と実生集団の遺伝子組成を比較した。標高別母樹の花粉プールの遺伝的異質性について解析した結果、1200m集団の花粉プールは600m集団や900m集団のそれとは明らかに異なる組成であることが判明した。また、900mの実生集団の一部に1200m集団と同じ遺伝クラスタ―が混入しており、中心辺境仮説とは逆の遺伝子流動が生じている可能性が示唆された。
・高標高×低標高の分離集団を用いて生理形態形質に関してQTL解析を行い、9つの生理形態形質について有意なQTLを検出した。また、前述した十勝岳の3標高域において24個体の成木サンプルからRNAを抽出し、遺伝子発現解析を行った結果、47,238の遺伝子座のうち413座がアウトライアーとして検出された。
・高標高と低標高の人工交配家系を用いて針葉・枝の形態学的特性について調査した結果、高標高と低標高の交配家系では多くの場合、中間型の形質を示すことが明らかになった。これらの形質に関して、ゲノムワイド関連解析を行った結果、多くの形態形質と関連する遺伝変異が検出された。
【研究代表者】