菌根菌の埋土胞子バンクを探る
【研究分野】森林科学
【研究キーワード】
埋土胞子 / 菌根菌 / 胞子 / 休眠 / 荒廃地 / 多様性
【研究成果の概要】
菌根菌は樹木の成長や定着を促進する共生微生物である。多くの樹木は菌根菌に養分吸収の大部分を依存しており、菌根菌と共生しなければ樹木は全く成長できない。一般に、森林土壌は菌根菌の菌糸体が普遍的に分布している。森林が安定している状態ではこうした菌糸体が主要な感染源として更新する実生に対して容易に感染できる。しかし、樹木が伐採や焼失すると、菌根や菌糸体も死滅する。こうした攪乱の後には土壌中の埋土胞子が主要な感染源となるものと考えられる。本研究ではこうした菌根菌の埋土胞子の密度、種組成、休眠期間などを明らかにすることを目的とする。
富士山、高知、三重、奈良の森林から採集し、菌根菌の埋土胞子について調べた。埋土胞子を直接抽出するのは難しく、非効率的である。そこで、宿主樹木実生を採取土壌に植栽し、埋土胞子によって実生に菌根を形成させることで、休眠状態の胞子の存在を調べる(釣り上げ法)。菌種の同定はDNA解析によって行った。
富士山の菌根菌埋土胞子には、キツネタケ属やワカフサタケ属など、子実体として確認されているものが多く確認された。植生の発達した場所から採取した土壌中には菌根菌の埋土胞子が存在する頻度が高かったものの、裸地や植生遷移の初期段階にある土壌から採取した土壌中には埋土胞子が確認できないことが多かった。高知や三重、奈良のトガサワラ林から採取した土壌中の菌根菌の胞子は、ショウロ属が優占していることが明らかとなった。特にトガサワラ属樹木に特異的に感染するショウロの系統はこれまでに日本で報告されたことがなく、菌と生物の共進化や系統地理の分野で特筆すべき成果といえる。また、アカマツとダグラスファーを用いた釣り上げ試験では、優占する菌種が異なり、それぞれの樹木の属に特異的に共生するショウロ属であった。ショウロの埋土胞子の分布や組成が定着する樹木実生の組成を決定する要因になるものと考えられた。
【研究代表者】
【研究種目】挑戦的萌芽研究
【研究期間】2009 - 2010
【配分額】3,000千円 (直接経費: 3,000千円)